藤丸詩織は手術が成功した後、長いため息をつき、衛宮亮に向かって言った。「院長、ご協力ありがとうございます」
衛宮亮は何度も首を振り、笑いながら言った。「いいえ、とんでもありません。お側で助手を務めさせていただけたことは、私の光栄です」
衛宮亮は「それに、先生の手技を拝見させていただき、多くのことを学ばせていただきました。私の医術も大きく向上すると思います」
藤丸詩織が手術室を出ると、すぐに長谷司の姿が目に入った。
長谷司は目を伏せ、小声で言った。「申し訳ありません。先ほどは私たちの目が節穴で、先生のお立場を見抜けませんでした。もちろん、私だけの責任ではありません。先生があまりにもお若く見えて、医術が…」
衛宮亮は自ら藤丸美音を病室に案内し、出てきたところでこの場面に遭遇した。
衛宮亮は前に進み出て、冷たい声で言った。「年齢が若いからといって医術が劣るわけではありません。人を見かけで判断してはいけません!」
長谷司は「分かっています。ただ、彼女には医者らしい雰囲気がなく、むしろ買い物好きなお嬢様のように見えただけです」
藤丸詩織は長谷司を一瞥し、視線を戻すと淡々と言った。「他人を勝手に推測する時間があるなら、医学書を研究して自分の医術を向上させた方がいいでしょう」
藤丸詩織は藤丸美音のことが気がかりで、ここで長谷司と言い争う気はなく、衛宮亮に頷いて挨拶した後、大股で病室に入った。
長谷司の脳裏には藤丸詩織が自分を見た眼差しが何度も浮かび、強く握りしめていた両手の拳がゆっくりと緩んでいった。
長谷司は認めざるを得なかった。藤丸詩織の医術は自分には到底及ばないレベルで、彼女との間には大きな差があった。心の中の不満は徐々に薄れ、尊敬の念へと変わっていった。
衛宮亮は長谷司の様子を見て、淡々と言った。「これから一ヶ月間、家で医術の勉強に専念しなさい。病院には来なくていい」
長谷司は頷いて答えた。「はい」
長谷司はあの澄んだ瞳を思い出し、衛宮亮に向かって尋ねた。「院長、名医の本当の姿をご覧になったことはありますか?」
衛宮亮は首を振った。「いいえ、名医は常に神秘的で、決して素顔を見せることはありません。私が二度その姿を拝見できたことは、この人生で最も光栄なことです」