269まるで不治の病のように

桜井蓮の脳裏に藤丸詩織の姿が浮かんだ。

藤丸詩織もあの頃はそうだった。いつも家で彼の帰りを待ち、帰宅した彼のために好物を作り、目を輝かせて彼を見つめ、瞳には愛情が満ちていた。

しかし、それはまるで夢のようで、今では全て消え去ってしまった。

桜井蓮は太陽を見上げ、少し冷静になろうとした。最近なぜ藤丸詩織の夢を見続けているのか、そして酔っ払うと無意識に他の女性を彼女と思い込んでしまうのか、理解できなかった。

桜井蓮は茫然と歩き続け、道を外れていることにも気付かなかった。

突然、棒で頭を強く殴られ、そのまま地面に倒れ込んだ。

数人が茂みから現れ、桜井蓮を麻袋に詰めて連れ去った。

藤丸家。

藤丸美音は涙目で藤丸詩織を見つめ、小声で言った。「お姉様、寂しくなります。」

藤丸詩織はしゃがみ込んで、藤丸美音の頭を撫でながら優しく言った。「美音、私も寂しいわ。でも学校に行かなきゃいけないでしょう。勉強して知識を身につければ、家庭の状況も変えられるわ。」

藤丸美音は頷いて、「はい」と答えた。

藤丸詩織は用意していたプレゼントを藤丸美音に渡した。

藤丸美音は受け取りながら、戸惑いつつ尋ねた。「お姉様、これは何ですか？」

藤丸詩織は藤丸美音に開けるよう促しながら言った。「あなたに携帯電話をプレゼントするの。何かあったり、いじめられたりしたら、私に電話してね。すぐに助けに行くから！」

藤丸美音は藤丸詩織を抱きしめ、大きく頷きながら、涙声で「はい」と答えた。

藤丸詩織は「美音、休みになったらまた遊びに来てね。いつでも歓迎よ」と言った。

しばらく一緒に過ごすうちに、藤丸詩織もこの素直で賢い少女のことが大好きになり、別れを惜しむ気持ちでいっぱいだった。

藤丸詩織は更に二、三言付け加え、運転手に道中ゆっくり運転するよう頼んだ。車が視界から消えるまで見送った後、軽くため息をついて視線を戻した。

藤丸詩織は気持ちを整理し、仕事に戻った。

再び顔を上げた時には、外はすっかり暗くなっていた。

藤丸詩織は空っぽの胃をさすりながら、今夜何を食べようか考え始めた。しかし考えがまとまらないうちに、携帯電話が鳴った。

相良健司が何の用だろう？藤丸詩織は不思議に思いながら、十数秒の沈黙の後、電話に出た。彼女が口を開く前に、相良健司の焦った声が一気に飛び込んできた。