桜井蓮は藤丸詩織が嘘をついていると感じたが、彼女は記憶を取り戻した後、確かに大きく変わり、まるで自分の魂を見つけたかのように、特に人を惹きつけるようになった。
藤丸詩織は桜井蓮が信じているかどうかに関係なく、さらに続けて言った。「名医が美音の治療をしてくれた理由については、ただ彼女が優しく、人助けを喜んでいるということだけです。」
藤丸詩織は自分を褒めるのに少しも恥ずかしがることなく、とても落ち着いていた。
桜井蓮はそれを聞いても特におかしいとは思わなかった。なぜなら、名医は彼の心の中で、確かに藤丸詩織が描写したような人物だったからだ。
久我湊が病室に入って桜井蓮を見かけると、顔の笑みが少し消え、藤丸詩織の方を向いて小声で言った。「社長、レストランの予約は済ませました。食事に行きましょう。」
藤丸詩織はちょうど桜井蓮と関わりたくなかったので、久我湊の来訪は絶好のタイミングだった。すぐに答えた。「ええ、行きましょう。」
藤丸詩織は介護士に藤丸美音をよく看てくれるよう頼んでから、安心して病室を出た。
桜井蓮は藤丸詩織が去るのを見て、無意識に後を追った。
藤丸詩織は深いため息をつき、桜井蓮の方を向いて尋ねた。「桜井社長、何かご用でしょうか?」
桜井蓮は正々堂々と言った。「川崎市は初めてで土地勘がないんです。ここでは君しか知り合いがいない。ちょうどお腹も空いているので、一緒に食事に行きたいんです。」
藤丸詩織は桜井蓮の言葉を一言も信じなかった。この数年間、桜井蓮は国内外の様々な場所で出張をしており、見知らぬ環境への対処方法は確実に持っているはずで、誰かについていく必要など全くないはずだった。
彼女には桜井蓮の態度が180度変わった理由が分からなかった。以前は彼女に対して冷淡だったのに、今は離婚した後になって、逆に彼女に執着し始めている。
藤丸詩織は目を上げて桜井蓮を見つめ、言った。「あなたは川崎市で私だけを知っているわけではありません。相良健司もいるはずです。」
桜井蓮はまばたきもせずに言った。「相良は東京に戻ったよ。」
藤丸詩織は何も言わず、ただ桜井蓮の後ろに視線を向けた。
桜井蓮は不吉な予感がして、藤丸詩織の視線の先を見ると、今にも地面に潜り込みたそうな相良健司の姿が目に入った。
相良健司はどもりながら呼びかけた。「桜、桜井社長……」