300 温水修の居場所を突き止める

温水修に美音の親権を取り戻すのを手伝うという件については、彼女の頭から完全に抜け落ちていた。

ただ、藤丸志穂は顔を上げた時に桜井蓮が自分を見ていることに気づき、驚いて足早に立ち去った。

桜井蓮は藤丸志穂の去っていく後ろ姿を見つめ、表情は暗く、目には嘲りが満ちていた。やはり表面的な親子関係に過ぎないのだと。

藤丸詩織は時計を見て、たった10分しか経っていないことに気づいた。つまり、藤丸志穂の言う愛情はたった10分の価値しかないということだ。

藤丸詩織は藤丸美音の方を向き、優しく尋ねた。「美音、頭まだ痛い?」

藤丸美音は嬉しそうに答えた。「痛くないよ。ちょっとかゆいだけ。看護師さんが、それは良くなってきてる証拠だって。良くなったら退院できるんだって!」

藤丸詩織は頷いて笑顔で言った。「そうね、美音はもうすぐ退院できるわ。そうしたらお姉ちゃんと遊びに行って、美味しいものを食べたり、お洋服を買ったりしましょう…」

二人は長い時間話し合い、藤丸美音はゆっくりと眠りについた。藤丸美音の穏やかな寝顔を見て、藤丸詩織は口角を上げ、そっと手を伸ばして布団をかけてやった。

藤丸詩織は介護士に藤丸美音をよく見ていてくれるよう頼んでから、そっと部屋を出ようとした。しかし、病室を出るなり、暗い表情の桜井蓮と出くわしてしまった。

藤丸詩織が立ち去ろうとすると、桜井蓮に呼び止められた。

桜井蓮は冷たい声で言った。「藤丸志穂の言うことは全て嘘だ。彼女が美音と親密になって、二人で手を組んであなたに対抗しようとしているんじゃないかと心配にならないのか?」

桜井蓮の怒りに藤丸詩織は一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。おそらく藤丸志穂と美音のやり取りが、彼の良くない記憶を呼び起こしたのだろう。

彼女の知る限り、桜井蓮の両親は彼が幼い頃に不仲になり、彼は父親のことを一度も話したことがなかった。だから、この光景を見て自分の境遇と重ね合わせてしまったのかもしれない。

藤丸詩織は心の中でそう推測したが、口には出さなかった。

以前、桜井蓮と3年間結婚していた時も、彼女が尋ねても彼はこの件について何も話さなかった。今は離婚した身なのだから、なおさら聞く資格も必要もない。

藤丸詩織は腕を組み、桜井蓮の目を見返しながら淡々と答えた。「心配していないわ」