310 藤丸詩織は濡れ衣を着せられる

桜井蓮は顔色を変え、冷たい声で尋ねた。「なぜ水野月奈を藤丸さんのところへ送ったんだ？」

相良健司は頭を下げ、小声で答えた。「桜井社長、この部下は最近就任したばかりで、東京の地理にあまり詳しくないんです。水野様の指示通りに進んで、到着してから藤丸さんだと分かったんです。」

桜井蓮は顔を曇らせ、脇に置いてあったスーツを手に取り、足早に別荘を出た。「藤丸さんへ行くぞ。」

相良健司は慌てて後を追った。

藤丸グループ。

藤丸詩織は会社にまだ多くの書類が残っていることを思い出し、少し休んだ後で会社へ向かった。その際、神崎湊も一緒に連れて行った。

神崎湊は元々とても小さな会社に所属していて、しかも非常に辺鄙な場所にあった。藤丸グループと比べると全く比べものにならず、藤丸グループを目にした時、彼は完全に呆然としてしまった。

藤丸詩織は「後で誰かに会社を案内させるわ。ついでにチームも作って、あなたが芸能界で活動しやすいようにするわ」と言った。

神崎湊は目を見開いて、信じられない様子で尋ねた。「藤丸さん、私のために専門のチームを作ってくださるということですか？」

藤丸詩織は軽く頷き、その通りだと示した。

藤丸詩織は自分の一言が神崎湊の心にどれほどの波紋を広げたか全く気付かず、入ってきた真壁誠に「神崎さんに会社を案内してあげて」と言った。

真壁誠は「はい」と応じた。

神崎湊は優しい眼差しで藤丸詩織を見つめ、素直に「藤丸さん、失礼します」と言った。

藤丸詩織は頷いて、「うん」と答えた。

藤丸詩織は二人がオフィスを出た後、仕事の処理を始めようとしたが、書類を取り出したばかりのところで、ドアが急いで叩かれた。

焦った表情の真壁誠を見て、彼女は不思議そうに「どうしたの？」と尋ねた。

真壁誠は「藤丸社長、水野月奈が我が社のビル屋上に上がって、飛び降りると言っています。警察も来ていて、下には大勢の人が集まっています」と報告した。

藤丸詩織は眉をひそめ、いらだたしげに「水野月奈が何をしたいのか見に行ってくる」と言った。

真壁誠も一緒に行こうとしたが、藤丸詩織に止められた。

藤丸詩織は「こんな些細なことに付き合う必要はないわ。引き続き神崎さんに会社を案内してあげて」と言った。

真壁誠はそれを聞いて、仕方なく承諾した。