311 抱き合う

警察はそう考えると、水野月奈に諭すように言った。「お嬢さん、これは誤解があるかもしれません。この方はそんなことをする人には見えませんが。」

水野月奈は警察の言葉を聞いて、さらに腹が立った。藤丸詩織のどこがそんな人に見えないのか理解できなかった。死ぬ気がなくて、ただ見せかけだけだったからこそ、すぐに飛び降りなかっただけだ。

水野月奈は警察に怒って言った。「あなたは何を根拠に彼女が横恋慕していないと思うんですか?具体的な状況も知らないのに、何を適当なことを言っているんですか!」

下にいた人々は水野月奈の言葉を聞いて、すぐに大声で議論し始めた。

「なんてことだ、世の中にこんな恥知らずな女がいるなんて。人の婚約者同士が婚約しているのに、横から入り込むなんて。」

「この警察官は少し不専門的ですね。このお嬢さんが第三者の介入だと言っているのに、まだそうとは限らないと言うなんて、笑わせる。もし横恋慕がなかったら、このお嬢さんがどうして絶望して飛び降りようとするの?」

「そうそう。」

……

メディアの記者は群衆の中に隠れ、口元の笑みを深めながら、必死にシャッターを切っていた。

ただ残念なことに、カメラを構えても屋上の手すりの前に立つ水野月奈しか撮影できず、もう一人の「第三者」当事者は撮れなかった。

しかしそれは問題ない。この件をネットに投稿すれば必ず話題になると予測していた。もう一人の当事者がいるかどうかは、もはや重要ではなかった。

この時、屋上にいる藤丸詩織の感情は相変わらず安定していた。水野月奈を見つめながら冷静に口を開いた。「あなたの頭の構造が理解できないわ。記憶喪失でもあるの?だって私の記憶では、あなたと桜井蓮の結婚式が中止になったのは、あなたが浮気したからでしょう。あの時、大スクリーンにはあなたと他の男性が絡み合っている映像が映し出されていたわ。」

水野月奈は一瞬固まった。もちろんそのことを忘れてはいなかったが、藤丸詩織がこんな場面でそれを持ち出すとは思わなかった。

藤丸詩織は続けて言った。「もし忘れたのなら、構いませんよ。当時の映像を取り寄せて、みんなで鑑賞することもできますから。」