312 彼は私のことが好きじゃない

水野月奈は頭を上げて桜井蓮を見ると、両手で地面を支えて立ち上がり、彼の方へ急いで走り寄って、興奮した様子で声を上げた。「蓮お兄さん、来てくれたのね」

藤丸詩織は水野月奈の声を聞いて振り向き、桜井蓮を見た時、唇の端に嘲笑いを浮かべた。

彼女は頭を素早く働かせ、桜井蓮が水野月奈を助けに来た時、どう対応するべきか考えていた。

しかし、桜井蓮が彼女を見つめたまま、長い間何も言わないとは思わなかった。

水野月奈は桜井蓮の様子を見て、心中不満を感じ、藤丸詩織をより一層嫌悪し、目に悪意が閃いた。全部あの賤人が蓮お兄さんの目を引いたせいだわ!

水野月奈は桜井蓮の手を掴み、哀れっぽく言った。「蓮お兄さん、藤丸詩織が私を殴ったの。見て、私の顔をこんなにしたのよ」

桜井蓮は水野月奈の手を振り払い、一歩後ろに下がって二人の距離を広げ、冷ややかに言った。「月奈、僕はバカじゃない」