桜井蓮は理解できなかったものの、周防司に命令するように言った。「私に資格があるかどうかに関係なく、今日からもう藤丸詩織のことを好きになってはいけない!」
桜井蓮は、周防司が長年の親友でなければ、今すぐ殴りに行っていただろうと思った。
周防司は足取りがふらつく桜井蓮の後ろ姿を見て、病気でもあるのかと思いながら、彼の警告を頭の中から追い出した。
桜井蓮は外に出て真っ暗な空を見上げ、瞳に戸惑いが浮かんだ。
彼はこれまで否定し続け、藤丸詩織に対しては罪悪感しかなく、彼女に優しくするのも償いのためだと心の中で固く信じていた。
でも、本当に罪悪感だけだったのだろうか?
桜井蓮は先ほど周防司が藤丸詩織を追いかけると言った時の心臓の一瞬の停止と、最近藤丸詩織のことで揺れ動く感情を思い出した。
桜井蓮は突然、自分の藤丸詩織への感情が単なる罪悪感ではなく、好意なのかもしれないと気づいた。
好き、好き、好き……
桜井蓮の頭の中でこの言葉が繰り返し響き、同時に藤丸詩織の姿が浮かび上がった。彼は確かに藤丸詩織のことが好きなのだと思った。
それを確信すると、躊躇いながら相良健司に電話をかけた。
相良健司は夢うつつの中で目を覚まし、ぼんやりと尋ねた。「桜井社長、何かご用でしょうか?」
桜井蓮は数秒間の間を置いてから、口を開いた。「女の子を口説く方法を知っているか?」
女の子を口説く?相良健司は桜井蓮の口からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。一瞬反応できず、自分がまだ目を覚ましていないのではないかと疑った。
彼は無意識に尋ねた。「桜井社長、藤丸詩織さんを口説きたいということですか?」
桜井蓮は心の内を見透かされ、心臓が激しく鼓動した。冷たい声で言った。「アドバイスを求めているだけだ。余計な推測はするな。」
相良健司は桜井蓮の口調を聞いて、好きな人が藤丸詩織だと確信を深めた。それに気づくと眠気は一気に吹き飛び、興奮して言った。「桜井社長、まずは藤丸詩織さんに優しくすることが大切だと思います。」
桜井蓮は相良健司の口から「藤丸詩織さん」という言葉を聞いて、唇を噛んだ。否定したい気持ちはあったが、結局何も言わなかった。
どうせ相良健司はいずれ知ることになる。否定する必要は全くない。