319 聞く耳を持たない

藤丸詩織が車から降りると、玄関に立っている小さな人影が目に入った。

藤丸美音は小さな足で素早く藤丸詩織の前まで走り寄り、手を伸ばして彼女を抱きしめ、頭を上げて輝く目で見つめながら、愛着を込めて言った。「お姉ちゃん、やっと帰ってきた。会いたかった」

藤丸詩織は美音を抱き上げ、困ったように言った。「美音、まだ回復期なのに、玄関で風に当たっちゃダメでしょう?」

藤丸美音は頬を寄せて藤丸詩織にキスをし、しっかりと抱きしめながら甘えた。「お姉ちゃんに会いたかったんだもん」

橘譲は思わず口を開いた。「確かに彼女はあなたに会いたがっていました。目が覚めてからずっと元気がなくて、あなたが退勤する頃になってやっと生き生きとして、玄関で待つと言い張ったんです」

藤丸詩織は橘譲の言葉を聞いて軽く笑い、美音に尋ねた。「美音は家で退屈だったの?」