司会者:「藤丸さん主催の刺繍コンテストへようこそ!」
司会者の言葉を聞いた観客たちは、一斉に拍手を送り、興奮して歓声を上げた。
司会者:「では、審査員の椎名妙先生をご紹介いたします!」
椎名妙の名前が出た瞬間、参加者たちは一瞬固まり、数秒後に我に返ると、信じられない様子で声を上げた。「椎名妙先生!」
「本当に椎名妙先生だ。」
「すごい、椎名妙先生はとても神秘的な方なのに、まさか私が椎名妙先生にお会いできるなんて。」
「椎名妙先生って誰?」
「椎名妙先生を知らないの?椎名流刺繍の無形文化遺産伝承者よ!」
……
若宮佳奈は熱い眼差しで椎名妙を見つめていた。
彼女が刺繍に興味を持ったのは、かつての椎名妙先生の大会を見たからだった。ただ、その後どれだけ探しても先生の居場所が分からなかったのに、今日こうして実際にお会いできるなんて!
香月蛍は若宮佳奈の涙ぐんだ目を見て、嫌そうに目を回し、軽蔑した口調で言った。「田舎者ね、ただの刺繍の上手い人を見ただけで、こんな情けない姿になるなんて。」
若宮佳奈の親友の羽鳥新菜は怒って立ち上がり、激しく言い返した。「香月さん、どういう言い方!佳奈は……」
若宮佳奈は羽鳥新菜を引き止め、軽く首を振って、小声で言った。「新菜、今は刺繍コンテストの会場よ。香月さんとは争わないで、今は後の試合が一番大事だから。」
羽鳥新菜は心の中では納得がいかなかったが、若宮佳奈の言う通りだと思い、香月蛍を懲らしめる考えを押し殺した。
藤丸詩織は若宮佳奈と香月蛍から少し離れた場所に座っており、二人の会話をはっきりと聞いていた。香月蛍を見る目が冷たくなった。
昨日の彼女の直感は、見た目で判断したのではなく、何かを察知していたのだと。
司会者は椎名妙先生との対面で興奮している観客たちを落ち着かせ、続けて言った。「椎名妙先生の他にも、数名の審査員がいらっしゃいます!」
司会者が一人一人紹介した後、藤丸詩織に視線を向け、手で示しながら笑顔で言った。「そして、特別ゲストもお迎えしております。」
特別ゲスト?
観客たちは不思議そうに振り返ったが、藤丸詩織を見た瞬間、全員が言葉を失い、しばらく沈黙が続いた。
こんなに美しい女性が世の中にいるなんて、誰も想像していなかった。