榊蒼真は首を振って答えた。「見ていません。でも、私たちと同じ方向に流されていたのを覚えています。ただ、海岸に着いた時に別れてしまったんです」
榊蒼真の言葉が終わるや否や、桜井蓮が木の陰から姿を現した。
桜井蓮は藤丸詩織を熱い眼差しで見つめ、静かに言った。「こんなに私のことを心配してくれているとは思わなかった」
藤丸詩織は表情を変えることなく、淡々と答えた。「私を助けようとして海に落ちたのだから、心配するのは当然でしょう。そうでなければ、私があまりにも冷たい人間ということになります」
榊蒼真は手にした果物を再び藤丸詩織に差し出し、優しく言った。「お姉さん、この果物も美味しいですよ。食べてみてください」
藤丸詩織は微笑みながら手を伸ばして受け取った。
桜井蓮は二人の親密で自然な仕草を見て、表情が曇った。
彼が先ほど近づいてきた時、ちょうど榊蒼真が藤丸詩織に人工呼吸をしているところを目撃していた。
重なり合う二人の姿が彼の目を刺すように痛めつけた。桜井蓮は自分が藤丸詩織を先に見つけられなかったことを悔やんだ。
桜井蓮の腹が鳴った。
藤丸詩織は桜井蓮の方を向き、唇を噛んで数秒躊躇した後、開口した。「そこの木に生っている果物は美味しいわ。採ってみたら?」
桜井蓮は果樹を見た。それは榊蒼真が採ったものと同じだった。
彼は冷たく鼻を鳴らし、立ち去った。しばらくすると戻ってきて、手には深紅色の果実を数個持っていた。
桜井蓮は冷ややかな目で藤丸詩織と榊蒼真を見て、言った。「あの果物は好きじゃない。こっちの方が好みだ」
藤丸詩織はちらりと見た後で視線を戻し、桜井蓮が口に運ぼうとした時にゆっくりと言った。「その果物は毒よ」
桜井蓮の動きが止まり、思わず尋ねた。「どうしてそんなに確信が持てるんだ?」
藤丸詩織は気なく答えた。「推測よ」
桜井蓮は冷笑した。
藤丸詩織は「信じられないなら、食べて毒にあたるかどうか試してみたら?」と言った。
桜井蓮は少し迷った後、結局果物を食べなかった。かといって榊蒼真が採った木の果物も気に入らなかった。
そのため、どんなに空腹でも、自分の腹が鳴るままにしていた。
藤丸詩織は食べ終わると、榊蒼真に尋ねた。「三番目のお兄さんは、いつ私たちを迎えに来るって言ってた?」