榊蒼真は首を振って答えた。「見ていません。でも、私たちと同じ方向に流されていたのを覚えています。ただ、海岸に着いた時に別れてしまったんです」
榊蒼真の言葉が終わるや否や、桜井蓮が木の陰から姿を現した。
桜井蓮は藤丸詩織を熱い眼差しで見つめ、静かに言った。「こんなに私のことを心配してくれているとは思わなかった」
藤丸詩織は表情を変えることなく、淡々と答えた。「私を助けようとして海に落ちたのだから、心配するのは当然でしょう。そうでなければ、私があまりにも冷たい人間ということになります」
榊蒼真は手にした果物を再び藤丸詩織に差し出し、優しく言った。「お姉さん、この果物も美味しいですよ。食べてみてください」
藤丸詩織は微笑みながら手を伸ばして受け取った。
桜井蓮は二人の親密で自然な仕草を見て、表情が曇った。