桜井蓮は藤丸詩織が以前周防のお爺様を救い、前回の地震でも多くの人々を救ったことを思い出し、彼女は自分がずっと探していた名医なのではないかと思った。
そう考えた途端、彼の心臓の鼓動が早くなったが、すぐにまた落ち着いた。
桜井蓮は虚空を見つめ、「確かに藤丸詩織は多くのスキルを持っているけど、医術はそれほど難しいから、彼女にはマスターできないはず。まして名医になることなんて…」
桜井蓮は思考が乱れ、携帯電話に表示された藤丸詩織の番号を見つめ、しばらくして、まつ毛を微かに震わせながら、無意識に指で軽くタップした。
藤丸詩織は丁度眠りに落ちかけたところで、携帯の着信音で起こされた。彼女はいらいらしながら電話に出て、不機嫌に言った。「用件を手短に」
桜井蓮は藤丸詩織が電話を切るだろうと思っていたが、まさか出るとは思わず、一瞬呆然とした。
藤丸詩織は寝返りを打ち、イライラした声で言った。「用がないなら切るわよ」
桜井蓮は我に返り、慌てて声を上げた。「切らないで、用があるんだ!」
藤丸詩織は桜井蓮の声を聞いて少し目が覚め、冷ややかに言った。「あなたからの電話だと分かっていたら、出なかったわ」
彼女はこの瞬間から決めた。これからは寝る時は携帯の電源を切ることにしよう。半分寝ぼけた状態で桜井蓮の電話に出てしまうのを避けるために。
電話の向こうで桜井蓮の息遣いが聞こえ、しばらく黙った後やっと話題を見つけた。「桜井雨音が怪我して入院した」
藤丸詩織は「ふーん」と返事をした。
桜井蓮は一瞬驚き、冷たい声で言った。「驚かないのか?」
藤丸詩織は桜井雨音は自分が救ったばかりで、さっき会ったばかりだから驚くことはないと言おうと思った。
桜井蓮は藤丸詩織が黙っているのを見て、突然ある考えが浮かんだ。「今朝、桜井雨音とあなたは少しもめていたよね。彼女がこうなったのは、あなたが仕組んだことなのか?」
藤丸詩織は欠伸をしながら、桜井蓮の質問に答えず、逆に尋ねた。「私が彼女に仕返しをしたいなら、今まで待つ必要があったの?それにこんなに露骨なやり方を使うと思う?」
藤丸詩織は続けた。「桜井雨音の性格からして、敵は私だけじゃないはず。もし私がやったと確信するなら、証拠を持ってきてから、そういう話をしてください」
桜井蓮は切れた電話を見つめ、苦笑いした。