383 あなたを信頼している

相良健司が藤丸さんのバラエティ番組の件を桜井蓮に伝えると、彼は無表情で物思いにふける様子だった。

相良健司も催促する勇気がなく、うつむいて傍らで彼の言葉を待っていた。

十分後、桜井蓮は「相良」と呼んだ。

相良健司は即座に応答した。「桜井社長」

桜井蓮は「確か会社にエンターテインメント関連の子会社があったはずだ。そこで良い人材がいないか探して、その資料を藤丸さんのところに送れ」と言った。

相良健司は直ちに了承し、急いで子会社へ向かった。

桜井蓮は目を伏せ、藤丸さんの公式サイトに掲載された内容を見つめていた。

藤丸さんは今までバラエティ番組に関わったことがなかったのに、突然開催するのは自社のタレントのために道を開こうとしているのだろう。自分にはこんなに冷たいのに、他の男には優しくするなんて、ダブルスタンダードもいいところだ!

桜井蓮は頬の痛みを感じながら、心の中でますますイライラし、スマートフォンの画面を消して床に投げつけた。

藤丸詩織...今では本当に自分のことを少しも好きではないのだろうか?

相良健司の言葉を聞き入れ、一生懸命努力しているのに、なぜ藤丸詩織は自分にチャンスをくれないのだろう?

バーにて。

桜井雨音は水野月奈を睨みつけ、冷たい声で言った。「一時間以上もかけて届けるなんて、友達はみんな待ちきれなくて帰っちゃったわよ。自分がどれだけ遅いか分かってる?前に藤丸詩織に頼んだ時は、30分で届けてくれたのに!」

水野月奈の表情が硬くなった。

桜井雨音はさらに続けた。「それに誰がカートでタピオカを運んでくるように言ったの?誠意が全然感じられないわ。私が欲しいのは、あなたが手で持って来てくれることよ。今回は大目に見るけど、次からこんなことしたら、容赦しないわよ!」

水野月奈は怒りを抑え込んで、笑顔で言った。「雨音、遅くなったのは、ある人に会ったからなの」

水野月奈は言い終わると、後ろを振り向いて手を振った。

牛島岳が桜井雨音の前に進み出て、優しく言った。「桜井雨音さん、こんにちは。実は長い間お会いしたいと思っていました。今日こうしてお会いできて光栄です」

桜井雨音は牛島岳を上から下まで見渡した。

牛島岳は黒いスーツを着ており、顔は平凡だったが、スタイリングのおかげで見られる程度にはなっていた。