榊蒼真は藤丸詩織が慌てて去っていく後ろ姿を見つめながら、イライラと頭を掻きむしった。風呂場に着替えを持って入るのを忘れたせいで、姉さんを驚かせてしまったのだ。
彼は藤丸詩織に謝りに行こうとしたが、一歩踏み出したところで躊躇して足を引っ込めた。
藤丸詩織は部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドに横たわったが、先ほど目にした光景が頭から離れなかった。
実は彼女はずっと榊蒼真を弟のように見てきた。彼が告白してきた時も、ただの子供の戯れだと思っていた。でも今になって、彼がもう大人になっていることに気付いた。もう子供ではなく、一人の男性なのだと。
藤丸詩織は布団を頭までかぶって、「明日も仕事があるんだから、こんなことを考えてる場合じゃないわ!」と呟いた。
翌日、藤丸グループにて。
藤丸詩織が仕事をしていると、オフィスのドアがノックされた。
彼女は顔を上げて、「どうぞ」と言った。
真壁誠が急いで入ってきて、焦った様子で言った。「社長、トレンド入りしてます」
藤丸詩織は二度目のこの経験に、冷静に尋ねた。「今回は何が原因?」
真壁誠は唇を噛んで、どう言えばいいか分からない様子だった。
藤丸詩織は真壁誠の困った表情を見て、机の上の携帯を手に取り、「自分で見てみるわ」と言った。
藤丸詩織は自分の名前がトレンド1位に上がっているのを見つけ、その横には「枕営業」という言葉が続いていた。
彼女は不思議そうにクリックし、ちらっと目を通して大体の内容を理解すると、思わず呟いた。「本当に暇なのね」
真壁誠は同意して頷いた。「そうですよね。パパラッチは藤丸社長と神崎湊さんが一緒に食事をしている写真一枚だけで、寝たと決めつけるなんて、笑い話です」
藤丸詩織はため息をつき、「残念ながら、多くの人がそれを信じているわね」と言った。
ネットユーザーたちは今まさに激しい議論を交わしていた。
「藤丸家のお嬢様、こんなに美人だったなんて!」
「美人だからって男性芸能人と寝ていい理由にはならないでしょ。神崎湊がこんなに人気なのも、裏に後ろ盾がいたからなのね。正直、私だってスポンサーがいれば爆発的に売れて、一日で何百万も稼げるわよ」
「神崎湊はまだ10代の子供よ。今は何も分かってないかもしれない。非難するなら藤丸詩織を非難すべきよ。きっと彼女が神崎湊に酒を強要したんでしょ」