052 君は嘘をついている

蘇我紬が玄関に着いたところで、影山瑛志に腕を掴まれ、引き戻された。

詰問の言葉が次々と浴びせられた。

「なぜ勝手な判断をした?待つって言っただろう?」

「蘇我紬、お前がこんなに主張の強い人だとは今まで気付かなかったな。お前の言動がどんな結果を招くか分かってるのか?!」

「お前には背負えない!」

最後の五文字は、影山瑛志が奥歯を噛みしめながら一字一句はっきりと発した。その中に秘められた怒りは想像するまでもなく相当なものだった。

しかし、蘇我紬にとってはもはやどうでもよかった。

彼女は首を傾げ、率直に言った。「なぜ恥ずかしさのあまり怒るの?私はあなたと違って、約束を守る人間よ。だからお爺ちゃんの前で、全ての過ちを私が引き受けたの。お爺ちゃんは私を可愛がってくれているから、叱りもしなかった」

白目を向けながら、軽蔑した口調で言った。「安心しなさいよ。私はあなたみたいに意地悪じゃないから、お爺ちゃんの前であなたを陥れたりしないわ」

そう言いながらも、蘇我紬が彼を陥れたくなかったわけではない。

影山お爺ちゃんにきつく叱ってもらえたら最高なのに!

それこそスッキリするのに!

結局どうだったか?あれこれ考えても言い出せなかった。この男がどんなに最低でも、以前は十年間も心の中にいた人。割り切れるはずがない。

優しすぎる彼女の代償は、自業自得の仕打ちを受けることだった。

影山瑛志は唇を引き締めた。「離婚はしない。もう離婚したくない」

「?」

蘇我紬は呆然と彼を見つめ、疑問符だらけの表情を浮かべた。

しばらくして、やっと声が出た。

「どうして?」

「お前が勝手なことをしたんだ。だから今は理由を知る資格はない。家に帰るぞ」

「嫌よ!でも私はもう離婚を決めたの。今のあなたに我慢できないし、白川蓮という女にも我慢できない!」蘇我紬は彼の手を振り払い、顔には不快感が露骨に表れていた。

なぜ彼が離婚したいと言えば離婚し、したくないと言えばしないの?

自分が誰だと思ってるの?

今日は彼の言うことを聞くつもりなんてない!

「白川蓮とは二度と連絡を取らない」

この言葉を聞いて、蘇我紬はまるで誰かが屁をこいたのを聞いたかのように、思わず吹き出して笑った。

「犬の性は治らないものね」