084 彼は不機嫌だ

蘇我紬が話す暇もなく、車から降りるやいなや影山瑛志に抱きしめられてしまった。

影山瑛志の力は非常に強く、蘇我紬は何度も必死にもがいたが無駄だった。彼女は諦めの表情を浮かべ、失望した声で言った。「おじいちゃんをこれ以上待たせるつもり?」

影山瑛志は蘇我紬の首筋に顔を埋め、少しかすれた声で言った。「先に行って、おじいちゃんと話が終わったら、僕と話をしてくれないか?」

「また今度ね」

蘇我紬はそう言い残し、再び身をもがいた。今度は影山瑛志が力を緩めた。

そして、蘇我紬は振り返ることなく歩き去った。

影山瑛志は夏川澄花に視線を向け、「この数日間、ありがとう」と礼を言った。

夏川澄花は軽く皮肉な笑みを浮かべ、「紬のことは私のことだから、お礼なんて必要ないわ」

そう言って、蘇我紬の後を追って中に入った。