120 吐き気がする匂い

この言葉が出た途端、誰も口を開く勇気がなく、むしろこの新人の追従の仕方に感心していた!

しかし黒田伊織は反応しなかった。

反応がないということは、黙認したということだ!

夏川澄花を中傷する冗談が次々と飛び交った。

女性はそれを聞いて大喜びで、ブドウは食べないけれど、バナナなら食べられるわと、黒田伊織のためにバナナの皮を剥いた。

黒田伊織の口元に差し出したところ、彼に払いのけられた。

続いて黒田伊織の冷たい声が響いた。完全な嫌悪感を込めて、「空気の読めない女だな。誰が連れてきた?」

この言葉が出た瞬間、個室内は激しい波のように衝撃が走った!

みんなは即座にくすくす笑う態度を改め、その女性を見つめた。

女性も呆然として黒田伊織を見つめ、目から涙がこぼれ落ちた。

黒田伊織はこういうのが一番嫌いだった。女性が泣くのを見ると夏川澄花の無言の涙を思い出し、胸が苦しくなる。

彼は急に立ち上がり、女性を一瞥して、「縁起でもない」と言った。

そう言って、部屋を出て行った。

夏川澄花は階段に座っていて、ずっと個室を見つめていたが、目は虚ろだった。

黒田伊織が出てきた時も、彼女はほとんど反応を示さなかった。

こんなにぼんやりしていて、彼を捕まえられるのか?

黒田伊織は口角を歪め、不満そうに夏川澄花を睨みつけながら、それでも彼女の前まで来た。

「行くぞ」

夏川澄花は体を震わせた。心の中で黒田伊織を痛快に叱りつけていた最中だったのに、まさかこんなところで!

黒田伊織のその不機嫌な顔が目の前に現れた。

夏川澄花は表情を引き締め、しぶしぶ立ち上がって、後を追った。

へいこらと言うように、「じゃあ約束したんだから、条件は出せないわよ」

黒田伊織、「...」

...

夏川澄花は黒田伊織の車に乗り、助手席に座った。

期待に満ちた目で黒田伊織を見つめた。

黒田伊織は発進せず、夏川澄花の方を向いて、「なぜ気が変わった?」と尋ねた。

夏川澄花は唇を噛んで、心の中で自分を励ました。絶対に怒ってはいけない、お願いがあるんだから、このむかつく男と言い争ってはいけない!