213 お前に何が分かる

病院に着いた。

蘇我紬は影山瑛志の意向に従って病室を移動し、新しい部屋に変えた。

病室というよりも、影山瑛志のために用意された特別な休憩室で、病棟のフロアにはなかった。

医師は蘇我紬の包帯交換や診察のためにわざわざここまで来なければならなかった。

影山瑛志は蘇我紬の世話を済ませると、離婚証明書を持って白川蓮のところへ解毒剤を取りに行こうとした。

蘇我紬はベッドに横たわりながら、突然動きを止め、出かけようとする影山瑛志を慌てて呼び止めた。「私の水筒を持ってくるのを忘れたみたい。前に床に落としたから、保温ポットの中で熱湯消毒してたの…」

影山瑛志は立ち止まった。「捨てようと思っていた保温ポットのこと?」

蘇我紬は何度もうなずいた。

その保温ポットは保温機能があまり良くなくなっていた。おそらく前回の洗浄時に壊れてしまったのだが、蘇我紬は気にしていなかった。影山瑛志が使用した時に気づいたのだった。

怪我をした直後、影山瑛志は新しいものに替えようとしていたが、結局それ以来来なくなってしまった。

その件はそのまま立ち消えになった。

影山瑛志は少し考えてから諦めた。「新しいのを買おう。」

蘇我紬は思わず口走った。「いやだ、あれがいいの。」

影山瑛志は怪訝そうに「水筒は使い込んだら交換が必要じゃないか?その水筒に何か特別な意味でもあるのか?」

蘇我紬の表情が一瞬こわばった。意味といえば、唯一の意味はその水筒が影山瑛志からもらったものだということだった。

彼女はずっと大切にして使わず、一番目立つショーケースに飾っていた。今回使ったのも、メイドが水を入れて持ってきたものだった。

影山瑛志の指示だと思っていたが、どうやらそうでもないようだった。

蘇我紬は手を振って同意した。「じゃあ新しいのを買いましょう。」

「ああ、いいよ。」影山瑛志は承諾した。

病室を出ると離婚証明書をポケットに入れ、蘇我紬の病室へ直行した。

あの病室の水筒がどんなものなのか、確かめてみたかった。

蘇我紬の部屋の前に着いて、ドアを開けようとした時、中から誰かがドアを開けた。その人は影山瑛志を見て驚いたものの、意外そうではなかった。

影山瑛志は淡々とその人を見つめ、何も言わなかった。