308 誘拐される

蘇我紬は慎重を期して、ナンバープレートを確認し、車体の色とナンバープレートが一致しないことに気づき、「運転手さん、人違いじゃないですか？これ、違うように見えますけど」と尋ねた。

運転席の運転手は太っていて、丸い帽子をかぶっており、顔の大部分が隠れていた。帽子の影でさらに表情が見えにくくなっていた。彼は声を低くして説明した。「あの車は途中で燃料切れになったので、自分の車に乗り換えて来ました。お嬢さん、早く乗ってください。次の客を迎えに行かなきゃならないんです！」

蘇我紬は疑問を感じ、躊躇して車に乗る勇気が出なかった。運転手はクラクションを鳴らし始め、いらだちを見せ始めた。

蘇我紬はますます違和感を覚え、数歩後退して立ち去ろうとした時、誰かに足を踏んでしまった。

すぐに口と鼻を布で強く押さえられ、声を出すことができず、絶望的に目を見開くしかなかった。

しかしすぐに、布に染み込ませた薬が効き始め、蘇我紬は抵抗する力を失った。そして頭からフードを被せられ、その黒い車に押し込められた。

「まさか、この女がこんなに慎重だとは思わなかったな。もう少しで逃げられるところだった」太った男が呟き、アクセルを踏んで別の通りへと向かった。

その車が去って間もなく、別の白い車がそこに到着したが、蘇我紬の姿は見当たらなかった。運転手は頭を掻きながら、周りを見回してみたが、誰も見つからなかった。

運転手は蘇我紬に電話をかけたが、ずっと応答がなかった。「おかしいな」

そう言って、この仕事を諦め、その場を離れた。

……

薄暗い倉庫の中。

「連れて来たのか？」

黒いマントを全身に纏った女が低い声で尋ねた。

女は黒いマントで全身を覆い、体型も分からないほどで、帽子の縁を深く被り、誰にも顔を見られたくないような様子だった。

「私の仕事を疑ってるのか？それに、あの男も一緒に連れて来たぞ」太った男は角に眠っている林与一を指差した。

黒マントの女はその男のことなど気にも留めず、彼女の主な目的は蘇我紬にあった。

女は蘇我紬の前に歩み寄った。この時、蘇我紬は目を固く閉じ、すでに意識を失っていた。女は蘇我紬の顎を強く持ち上げ、冷笑を浮かべた。「結局、私の手に落ちたわね。今度は、そう簡単には逃がさないわよ」