パティシエとの約束の日、蘇我紬は特別に15分早く到着した。
二人は新しくオープンしたカフェで待ち合わせていた。
夏川澄花がパティシエと一緒に来た時、澄花は絶え間なく話し続けていたが、隣の人は時々相づちを打つだけだった。
蘇我紬は澄花を見かけると、手を上げて挨拶した。「澄花、ここよ。」
澄花も熱心に応え、二人が近づいてきた時、澄花は蘇我紬にパティシエを紹介した。「紬、これが前に話していた国内外で有名なパティシエの新條結月よ。」
「はじめまして。」
初対面なので、礼儀正しく、蘇我紬は微笑みながら右手を差し出した。
「新條社長、彼女が私が話していた蘇我紬です。お菓子作りの才能が並外れています。」
澄花は惜しみなく蘇我紬を褒めた。
新條結月はサングラスをかけていたが、澄花の言葉を聞いて、少しだけサングラスを下げ、蘇我紬を見上げた後、すぐにまたサングラスを上げ、右手を差し出して蘇我紬と握手し、淡々と「はじめまして」と言った。
少しクールな感じだった。
でも、有名人が少し変わった性格を持っているのは普通のことだった。
蘇我紬はそれを気にしなかった。
三杯のコーヒーが新たに運ばれてきた後、蘇我紬と新條結月はようやくお菓子作りの話を始めた。
この機会に、蘇我紬は新條結月をじっくりと観察した。
新條結月は30代くらいで、少しふくよかな体型だが、手入れが行き届いており、肌は少女のように滑らかだった。
「お菓子作りを始めてどのくらい?」新條結月が尋ねた。
「ここ2年ほどですが、あまり頻繁には作っていません」蘇我紬は正直に答えた。
「よく作るのはどんな種類?」
新條結月の口調は終始淡々としており、サングラスも外さなかった。
蘇我紬は少し困った様子を見せた。彼女のお菓子作りは基本的に気分次第で、自分が頻繁に作るものが何なのか覚えていなかった。
「決まったものはありません。新しいものを試すのが好きなんです」蘇我紬の声は少し弱くなり、相手に悪い印象を与えないかと心配だった。
結局、パティシエとして、新商品の研究は確かに重要だが、定番商品で顧客を維持することも同様に重要で、顧客を失えば、どれだけ新商品を研究しても誰も興味を示さないだろう。