各テーブルには、大きな赤いバラの花束が置かれていた。
これは一緒に食事に来た女の子に贈るためのものだった。
レストランのサービスは、とても行き届いていて心遣いが感じられた。
藤原親父は突然ため息をついた。
藤原時央にほんの少しでも気配りができれば、浅子の向かいに座っているのは彼のはずなのに、この老いぼれではなく!
ああ、考えれば考えるほど腹が立つ!
食事を終えると、時田浅子は支払いをしようとした。
親父はすぐに止めた。
「君が招待してくれたなら、お爺さんが払うよ」
「いいえ!この食事は絶対に私がご馳走します」時田浅子の態度はとても断固としていた。
親父はまだメニューをしっかりと握り、威厳に満ちた表情で時田浅子を見つめていた。
「お爺さん、私にチャンスをください!」彼女は少し甘えた。
「私が使うのは自分で稼いだお金なんです!この前、ずっと録音の仕事をしていて、今日任務を提出したら、お金をもらったんです!」
親父は少し心が揺らいだようだった。
「お爺さんはこのチャンスさえ私にくれないの?」
「わかった、わかった、君が払いなさい」親父は手を放した。
時田浅子は嬉しそうにメニューを受け取り、支払いをした。
親父の心も花が咲いたように喜んでいた。
この食事は、浅子が自分の給料で彼をもてなしたのだ!
この娘め、数日間も部屋に閉じこもって稼いだお金を全部彼のために使ったのだ!
ああ、この気持ち、なんてこんなに甘いのだろう!
……
壁の時計が9時15分を指していた。
外からようやく車の音が聞こえてきた。
時田浅子は親父を支えて車から降りた。
彼女は片手で親父の腕を取り、もう片方の手で大きな赤いバラの花束を抱えていた。
時田浅子はこの道中ずっと、密かに考えていた。
今日、彼女は目的を達成できたのだろうか?
しかし、親父の感情は本当に読み取りにくかった。
少なくとも、表面上は彼女を嫌う様子は全く見せていなかった。
二人が家に入るとすぐに、時田浅子の笑顔は凍りついた。
リビングの明かりは薄暗く、ソファの横のフロアランプだけがついていた。
藤原時央が一人でランプの下に座っていた。
彼の視線は強烈で鋭く、時田浅子に注がれていた。
時田浅子の手には、大きな花束以外に何も持っていなかった。