「いいえいいえ、自分で払います。」時田浅子は何度も首を振った。
白川健斗は藤原時央の方を見た。
藤原時央は何も言わなかった。
まるで彼とは何の関係もないかのような冷淡な様子だった。
白川健斗はすぐに、この二人の間の雰囲気がおかしいことに気づいた。
藤原若旦那が昏睡状態だった時でさえ、こんなに疎遠ではなかったのに。
彼は縁結びの神様が鉄筋コンクリートで赤い糸を結んでも、藤原若旦那は一人の力でそれを折ってしまうのではないかと疑っていた!
「明日薬が届いたら、薬の値段を確認して支払ってください。」白川健斗も時田浅子を困らせたくなかったので、彼女の言う通りにするしかなかった。
「ありがとうございます。」時田浅子は小さな声でお礼を言った。
「どういたしまして。浅子、ちょうど藤原若旦那の検査が終わったところだから、彼を部屋まで送ってくれないかな?」
「必要ない。」藤原時央は冷たく拒否した。
彼は車椅子のボタンを押したが、車椅子は少し前に進んだだけですぐに止まってしまった。
そして、赤いランプが点滅し続けた。
車椅子のバッテリーが切れたのだ。
「江川楓を呼んでくれ。」藤原時央は白川健斗に命じた。彼の目には既に警告の色が浮かんでいた。
白川健斗はそれを見なかったふりをして、冗談めかして言った。「そんな必要あるかな?ここから君の部屋までそんなに遠くないよ。君の可愛い奥さんを疲れさせたくないのかい?」
藤原時央の目が沈み、鋭い視線を白川健斗に向けた。
「浅子、すまないが頼むよ。」白川健斗は時田浅子に優しい笑顔を向けた。
「構いませんよ。」時田浅子は柔らかく答え、藤原時央の車椅子を押して外に向かった。
白川健斗は二人の去っていく背中を見ながら、上機嫌でそばのコーヒーを手に取った。
彼には直感があった。藤原若旦那はきっと将来、妻を追いかけて火葬場行きになるだろう!
その光景は、絶対に見ものだ!
時田浅子は藤原時央を部屋まで送った。
江川楓の姿は見えず、周りには誰もいなかった。
「ベッドまで手伝いましょうか?」時田浅子は礼儀正しく尋ねた。
「ベッドに手伝ってくれた後は?一緒に寝るつもりか?」藤原時央は問い返した。
「どういう意味ですか?」時田浅子は怒りを抑えながら聞き返した。