第103章:別れの時、キスで別れを!

時田浅子は老人の視線の先を見て、顔色が一変した。

藤原時央の顔には、かすかな口紅の跡がついていた!

きっと先ほど車の中で付いたものだ!

藤原時央はゆっくりと手を上げ、自分の頬に触れた。指先には、薄いピンク色が付いていた。

彼女の口紅だ。

「わかっているよ」老人は杖を握りしめ、春風のように穏やかに微笑んだ。

「何がわかるというんだ?」藤原時央はティッシュを取り出し、冷たい表情で指先の口紅を拭った。

時田浅子は彼の動作を見て、心に屈辱を感じた。

わざとキスしたわけじゃないのに!

嫌だとしても、他人の気持ちを少しは考慮できないの?

老人は時田浅子の方を見た。

時田浅子はすでに背を向けていたので、老人は彼女の表情を見ることができず、若い娘が恥ずかしがっているのだと思った。

「時央、爺さんが年を取ったからといって、何も分からないと思うなよ!別れのキスくらい!若い者は、みんなそうだ」

藤原時央の動きが一瞬止まった。

別れのキスだって!

彼がキスされただけで、老人はこんなに喜んでいる?もし老人が知ったら、彼が目覚める前の晩、時田浅子に……

老人は喜びのあまり踊り出すかもしれない!

彼はもう一枚ティッシュを取り出し、顔を拭いてから、窓の上下ボタンを押した。

老人は彼のこの生意気な態度を見て、強く窓ガラスを杖でつついた。

「浅子、行こう」老人は振り返って時田浅子の方へ歩いていった。

江川楓は車に乗ったが、すぐには発車しなかった。

「どうしてまだ出発しない?」藤原時央は冷たく尋ねた。

「若奥様と老爺様が中に入るのを見届けないのですか?」

「見る必要があるのか!」

江川楓:……

……

飛行機を降りるとすぐに、大木嵐は人を送って時田浅子と老人を空港まで迎えに来させた。

時田浅子は藤原家の本邸を見た。

一目見ただけでは、この邸宅がどれほど広いのか見当もつかなかった!

帝都のこの土地価格の高い場所では、手のひらほどの土地でさえ、数百万円もする!

藤原家の本邸の面積は、平方メートルではなく、畝で計算しなければならないだろう。

「やっと帰ってきた。浅子、早く中に入ろう」老人は時田浅子の手を握り、大門の中へ入った。

入るとすぐに、古風な屏風があった。

假山や池、小さな橋と流れる水。