第204章:藤原若旦那が頑張りさえすれば、どんな声でも聞けるのでは

時田浅子が何の期待も持っていなかったとき、藤原時央の声がようやく響いた。

「彼が君を悩ませないようにするだけでいいのか?」

「うん」時田浅子は頷いた。彼女は藤原時央の言葉に隠された意味を聞き取れなかった。

しかし江川楓は藤原若旦那の言葉に含まれる冷酷さを感じ取った。

「わかった」藤原時央は頷き、それ以上は何も言わなかった。

時田浅子はまだ少し信じられなかった。彼は承諾したのだろうか?

「ありがとう、藤原若旦那」彼女の目は感謝の気持ちで満ちていた。

藤原時央は彼女の潤んだ瞳を見つめ、心に微かな波紋が広がった。彼はすぐに視線をそらした。

あの潤んだ瞳にこれ以上見入っていたら、骨まで溶けてしまいそうだった。

時田浅子はまだ少し心配で、後部座席の窓から再び外を見た。

あの車がぴったりと後をつけていた。

「明日は週末だが、何か予定はあるか?」藤原時央が突然口を開いた。

時田浅子は注意を藤原時央に向け、ゆっくりと答えた。「録音しなければならない音声がいくつかあるけど、他には特に何もないわ」

「その音声は急ぎなのか?」

江川楓は笑いそうになった!

その音声は藤原若旦那のために録音するものじゃなかったのか?!

今はもう必要ないだろう!本人がそばにいるのだから、藤原若旦那が頑張れば、どんな声でも聞けるはずだ!

時田浅子は首を振った。「いいえ、そんなに急いでいるわけじゃないわ」

彼女には、なぜ藤原時央が突然週末の予定を聞いてきたのか理解できなかった。

「あの車がぴったりとついてくる。藤原家に帰る道では手を出しにくい。彼らに君の行方を知られたくない」

「うん!彼らに藤原家まで尾行されるわけにはいかないわ」時田浅子はすぐに言った。

「江川楓、蘭苑へ行け」藤原時央は命じた。

「はい」

時田浅子は蘭苑がどこなのか知らなかったが、尋ねもしなかった。

藤原時央が手伝うと言ったのだから、彼の指示に従うだけだった。

車は高架を降り、郊外へと向かった。

後ろのグレーの車も続いて曲がった。

藤原時央は電話を取り出し、ある番号にかけた。

「うわっ!生き返ったぞ!」電話から突然声が響いた。

時田浅子は驚いた表情で藤原時央を見た。

電話の相手は誰なんだろう?

「お前、俺に酒を奢れと言っていたよな?今夜時間あるか?」