第228章:一人も逃がさない

藤原時央は手を上げて斉藤若春を支えた。

斉藤若春の反応は、彼の予想を完全に超えていた。

「大丈夫か?」彼は尋ねた。

「大丈夫よ」斉藤若春は首を振ったが、藤原時央の腕をしっかりと掴み、頭も自然と藤原時央の胸に寄りかかっていた。まるで気を失いそうな様子だった。

時田浅子は二人を呆然と見つめていた。

斉藤若春が駆け寄って彼女の代わりに平手打ちを受けるなんて、思いもよらなかった!

藤原時央は斉藤若春を支える手を離さなかったが、少し後ろに下がった。見た目は斉藤若春がまだ彼の腕の中にいるようだったが、実際には二人の間には距離があった。

斉藤若春は好機を逃さず、すぐに顔を上げ、時田浅子を心配そうに見つめた。

「時田浅子さん、怪我はない?」

「大丈夫です」時田浅子は首を振り、斉藤若春に尋ねた。「斉藤さんは?」

斉藤若春の唇の端からゆっくりと血が流れ出ていて、状態はあまり良くなさそうだった。

「私は大丈夫よ。さっきちょっとめまいがしただけ。今はもう少しマシになったわ」

藤原時央は斉藤若春の手を離し、先頭に立っていた女性を見た。

その女性は恐れて一歩後退した。

彼女は目の前の男性が誰なのか知らなかったが、彼の威圧感に心が震えた。

「時田浅子、今日はラッキーだったわね。今回は見逃してあげる!次に会ったら、会うたびに殴るからね!」女性は立ち去ろうとした。

このような騒ぎで、彼女の目的は達成された。先ほどの場面はすべて撮影済みだった!

彼女が身を翻して階段を降りようとした瞬間、数人の大柄な人物が行く手を阻んだ。

江川楓が最前列に立ち、その女性をにらみつけた。

女性は江川楓に押し戻された。

江川楓は階段を上がり、目の前の光景を見て、目に疑いの色が浮かんだ!

どうして若奥様が脇にいて、斉藤先生が藤原若旦那の腕の中にいるのだろう?

「藤原若旦那、すでに場内は清掃しました」江川楓は藤原時央に報告した。

斉藤若春は逆に藤原時央の腕に手を回し、心遣いよく言った。「時央、車椅子に戻って座ったら?」

江川楓はすぐに車椅子を押してきた。

藤原時央は車椅子に座った。

この時、レストランの1階はすでに完全に清掃されていた。

2階の個室にいた客たちも、スタッフの案内で別の階段から降りて退出していた。

時田浅子はこれが藤原時央の意向だと理解した。