この結婚は、始まりも彼の意思ではなく、終わりさえも彼の意思ではなかった。
これは彼の人生で唯一、彼のコントロールを失った出来事だったのだろう。
時田浅子は部屋に戻ると、すぐに録音機器を開いた。彼女は自分が暇になることを望まず、忙しくしていれば余計なことを考えずに済むからだ。
突然、彼女の携帯が鳴った。着信表示を見ると、なんと藤原時央からだった。
彼女は急いで電話に出た。
「藤原若旦那、何かありましたか?」
「会社で急な用事ができたから戻ることになった。私の部屋に来てくれないか。机の上に置いてあるものを、先に預かっておいてくれ。いつでも取りに来ていい」
「はい」時田浅子は返事をしながら、階下へ向かった。
藤原時央の部屋のドアを開けると、部屋の中は空っぽで、机の上の物はすべて片付けられ、ただ一つの書類袋だけが置かれていた。