「藤原若旦那、お家に着きましたよ」時田浅子は大声で注意を促し、藤原時央のますます制御不能になる行動を止めようとした。
藤原時央は時田浅子の顎を掴み、指の腹で彼女の滑らかな顎を撫で回した。
時田浅子は藤原時央の視線と目が合った。ほんの一瞬だったが、彼女はその視線に耐えられないと感じた。
彼の眼差しには少し酔ったような熱気があり、まるで暖かい風が春の水面を突然揺らしたかのようだった。そして、粘り気があり、糸を引くようだった。
「浅子、君にキスしたい」彼は突然言った。
「ダメ!だめです!」時田浅子はすぐに拒否した。「藤原時央、よく見て、今エレベーターの中ですよ」
「浅子、つまりエレベーターの中ではダメということか?」藤原時央は彼女に問い返した。
時田浅子は頭が混乱して、深く考えずに答えた。「はい、だめです!」
藤原時央は本当に素直に手を離した。
時田浅子は内心ほっとして、「藤原若旦那、何階に住んでいるんですか?」
「二十六階だ」
時田浅子は振り返り、エレベーターのボタンを押した。
エレベーターはようやく上昇し始めた。
藤原時央は車椅子に座らず、時田浅子を人間の支えにして、体重の半分を彼女にかけていた。
時田浅子は今、彼を押しのけることどころではなく、彼が立っていられずに転倒しないかと心配していた。
エレベーターは二十六階で止まり、ドアが開いた。
時田浅子は藤原時央を支えながら歩き、「藤原若旦那、壁につかまって少し立っていてください。車椅子を取ってきます」
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、藤原時央は彼女を引き寄せ、壁に押し付けた。
「エレベーターの中ではダメだったが、今はいいのか?」藤原時央は彼女に尋ねた。
「ダメ!どこでもだめです!」
藤原時央は突然頭を下げ、彼女に迫り、彼女の拒否の言葉をすべて飲み込んだ。
突然のキスに、時田浅子の頭は真っ白になった!
彼のキスは強引で拒否を許さないものだったが、同時に絡み合うような優しさも含んでおり、少しずつ彼女の理性を蝕んでいった。
藤原時央はついに願いを叶えた。
一度味わえば忘れられない、まさにこのことだ。
時田浅子が窒息しそうになったとき、彼はようやく名残惜しそうに彼女を離した。
時田浅子はすぐに大きく新鮮な空気を吸い込んだ。