車が店を出て、幹線道路に合流した。
これはまだ藤原家の本邸に戻る道ではなかった。
時田浅子は何も言わなかった。もう無駄な抵抗はしたくなかった。
藤原時央の意図は既に明確に表現されていた。彼女が彼の思い通りにさせれば、彼は手を放すと。
「今どこに行くの?」時田浅子は藤原時央に尋ねた。
「家に帰る」藤原時央は簡潔に二文字で答えた。
時田浅子はもう何も言わず、藤原時央の予定に黙って同意した形だった。
藤原時央は時田浅子の方を振り向いて一瞥し、少し驚いた。
彼女は藤原家の本邸に戻ることを主張しなかったのか?
彼の住まいに戻ることに同意したのか?
藤原時央の心の中には、小さな喜びがあった。
「今日は外で食事する気分じゃないから、帰ったら適当に麺でも作って食べよう」藤原時央は探るように言った。
「うん」時田浅子はうなずいて応じた。
藤原時央の目の奥に笑みが浮かんだ。
車はマンションのショッピングモール前で止まった。
「家では今まで料理をしたことがないから、まず食材を買わないと」藤原時央の声がゆっくりと響いた。
「麺を作るだけなら、私一人で買いに行けるわ」
「一緒に行こう。食べたいものがあれば、ついでに買えるし」
江川楓が車椅子を準備し、藤原時央は車椅子に座った。
時田浅子は彼を押してショッピングモールに入った。
モール内の人は多くなかったが、ここの商品はすべて非常に高級で、一般の人々には手が届かないことが見て取れた。
時田浅子は周りを見回したが、どのエリアで何を売っているのかまだ把握できていなかった。
これは彼女がいつも行くショッピングモールとはまったく違っていた。
「麺はどこで売ってるの?」時田浅子は藤原時央に尋ねた。
藤原時央はこの質問に答えることができなかった。
なぜなら、これが彼の人生で初めてショッピングモールで買い物をする経験だったからだ。
時田浅子は質問した後で後悔した。藤原時央がどうして知っているはずがない、彼はおそらくこういう場所に来たこともないのだろう。
遠くから、店員が二人がそこに立ったまま動かないのを見て、熱心に近づいてきた。
「お客様、何かお手伝いできることはありますか?」
「麺を買いたいんですが、麺はどこにありますか?」時田浅子はすぐに尋ねた。
「こちらへどうぞ」店員は前を案内した。