第350章:離婚したら手のひらを返した

最初に目に入ったのは、藤原時央に塗られた口紅の跡だった。

次に目に入ったのは、襟元の掛け違えたボタン!

藤原時央はちゃんと見ながらボタンを留めたはずなのに、どうして間違えるの?

彼はわざとやったんじゃないの?

時田浅子は急いでボタンを外し、正しく留め直してから、鏡の中の自分を見上げ、額を強く叩いた。

「時田浅子、なんてバカなの!藤原時央がメイク直しに行こうって言ったら素直についていくなんて、彼に隙を見せただけじゃなく、このメイク、直す前の方がましだったじゃない!」

時田浅子は腰に手を当てて怒り、自分を平手打ちしたい衝動に駆られた。

……

藤原時央は車の中に座り、ティッシュを取り出して唇の口紅を拭き取った。

鈴木真弦は車の外に立ち、熱心に見守っていた。この二日間、彼の懸命な努力のおかげで、ようやく藤原社長と奥様の間の出来事を理解できたのだ!

「社長、口角にまだ少し残っています。はい、そこです」鈴木真弦は小声で注意した。

藤原時央はティッシュを握りながら、ある考えが頭をよぎった。

時田浅子はあの夜、同意してくれた。さらには自分から彼にキスまでした。今日も、彼女は強く拒否することはなかった。

実際、彼女は彼に無関心ではないのだ。

たとえ柳裕亮との争いで勝つ可能性がわずか1パーセントだとしても、彼はその状況を覆せると信じていた!

このわずか1パーセントの可能性が、突然、藤原時央の気持ちを明るくした。

彼の口角も思わず少し上がった。

鈴木真弦は心の中で、社長は少し甘い思いをしたら気分が全然違うんだなと思った。

「社長、私の知る限り、普通は差し入れを持って撮影現場に行くものです。私たちも何か用意しましょうか?」鈴木真弦は提案した。

「準備しておけ」藤原時央は手を振った。

「はい」鈴木真弦はすぐに小走りで手配に向かった。

……

時田浅子は洗面所で少し気持ちを整理した。

考えた末に彼女は理解した。藤原時央が離婚手続きを済ませた後になぜ彼女の前に現れたのかを!

彼は彼女と寝たいという欲求が満たされていないから諦められないのだ!

彼が彼女を見る表情は、まるで飢えた狼が肉を見つめるようだった!

それ以外の意味はない!