「今のところ秘書は必要ありません、ありがとう」時田浅子はやはり断った。
「もし時田さんが本当に必要ないのであれば、直接藤原社長にお伝えください。私は藤原社長と5年間の労働契約を結んでいますので」
「今は時間がないけど、必ず彼に伝えるわ。先に戻っていて」
「藤原社長が私との労働契約を解除するまでは、時田さんにお仕えするのが私の務めです」
時田浅子は深く息を吸った。彼女は本当に言葉に詰まった。
彼女は今撮影の任務があり、この件でこれ以上時間を無駄にするわけにはいかなかった。そして撮影現場へと向かった。
森山緑も彼女の後についていった。
時田浅子は自分のバッグを手に取り、化粧鏡と口紅を探した。
柳裕亮は突然、時田浅子に向かって歩いていく森山緑を呼び止めた。
「そこのお嬢さん、ちょっと待ってください」
森山緑は足を止め、振り返って柳裕亮を見た。
「私はこの撮影チームの監督です。申し訳ありませんが、スタッフ以外は撮影現場に入ることはできません」柳裕亮は淡々と言った。
時田浅子はその声を聞いて、すぐに顔を上げた。
彼女は柳裕亮が自分を助けてくれていることを知っていた。彼女は見知らぬ人が自分の側にいることに慣れていなかった。
森山緑が口を開こうとしたとき、鈴木真弦が数人を連れて入ってきた。
時田浅子は鈴木真弦を見て、また驚いた表情を浮かべた。
鈴木真弦は後ろの人たちに指示して、いくつかの保温ボックスを置かせた。
「時田さん、藤原社長が言うには、暑い日なので撮影お疲れ様です。これは彼が差し入れとして、あなたと撮影スタッフのために持ってきたお菓子と飲み物です」
差し入れ?
時田浅子はこの言葉を聞いて、本当に恥ずかしくなった。
藤原時央は彼女を何か大スターだと思っているのだろうか?まだ差し入れまで!
彼はまだ帰っていないのだろうか?
撮影チームの人々は好奇心を持って保温ボックスの中を覗き込み、一目でケーキと飲み物の包装箱にあるロゴを見た。
これは五つ星ホテルのロゴだった。このホテルのアフタヌーンティーは通常一人598元もする。
柳裕亮は何も言わず、撮影チームの誰も動かなかった。