時田浅子は心の中で慌て、一歩後ずさりして椅子にぶつかり、座り込んでしまった。
藤原時央は椅子の肘掛けに手を置き、ゆっくりと身を屈めて時田浅子に近づいた。
時田浅子の呼吸が止まりかけ、狭い空間に閉じ込められた彼女は、強い圧迫感を感じた。
藤原時央はお茶の杯を取り上げ、時田浅子の唇の前に差し出した。
「時田浅子、このお茶を飲み終えれば、私の任務も完了だ」
時田浅子は急いで茶杯を受け取り、ごくごくと飲み干した。
「藤原若旦那、飲み終わりました」
藤原時央は空になった茶杯を見て、唇の端をわずかに上げた。
「時田浅子、わざわざ遠くからお茶を届けに来たんだが、少しは感謝の気持ちを示してくれないか?」
時田浅子はすぐに危険な気配を感じ取った。
「藤原若旦那はどのように表現すればよいでしょうか?」
「一言お礼を言うのは当然だろう?」
「ただ一言のお礼だけですか?」
藤原時央は笑った。その笑顔は春風のように温かだった。
「もう少し実質的な表現をしたいなら、断るつもりはないよ」
「ありがとうございます」時田浅子はすぐに口を開いた。
「どういたしまして」藤原時央は低い声で応えた。
この三つの言葉は、低音砲のように時田浅子の心を制御不能に震わせた。
藤原時央はゆっくりと体を起こし、振り返って元の位置に座り、茶杯を取って一口飲んだ。
時田浅子は密かにほっとした。
藤原時央は彼女に対して過度な行動をとらなかった。彼女がそう思っていたのは、本当に恥ずかしいことだった。
「藤原若旦那、もうすぐ撮影が始まるので、準備のために下に行きます」時田浅子は立ち上がって去ろうとした。
「汗をかきすぎて、メイクが崩れているよ」藤原時央が一言忠告した。
時田浅子はすぐに持ち歩いていた化粧直し用の鏡を取り出して確認すると、確かにメイクが崩れていた。
藤原時央は再び立ち上がり、時田浅子の手首を握って、エレベーターの方向へ引っ張っていった。
時田浅子は少し抵抗したが、藤原時央の手から逃れることはできなかった。
「藤原若旦那、どこへ連れて行くんですか?」
「メイク直しに行くんだ」藤原時央は冷静に答えた。
「メイク直し?」時田浅子は驚いた顔をした。「私の化粧品は撮影場所にあります。自分で下に行って直せばいいんです」