撮影が終わると、東さんは撮影現場に入り、時田浅子の前に来た。
「時田さん、これからどこへ行かれますか?お送りします。」
「結構です。」時田浅子は静かに断り、振り返って柳裕亮の方へ歩いていった。「先輩、今日は時間ありますか?母に会いに行きたいんですが、連れて行ってもらえますか?」
柳裕亮はすぐに頷いた。「ここは鈴木明に任せておけば大丈夫だから、今すぐ行けるよ。」
「裕亮、浅子、安心して行っておいで、ここは私がいるから!」鈴木明はすぐに言った。
車は道路を走っていた。まだ早い時間帯で、それほど混雑していなかった。
「時田浅子、今日はちょうど時間があるから、よければ僕も一緒にお母さんに会いに行こうか?」柳裕亮は時田浅子に尋ねた。
「前回あなたがたくさんの物を買ってきてくれて、母はもう十分気を遣わせたと思っているわ。実は今日はわざとあなたを誘い出したの。話したいことがあって。」時田浅子はゆっくりと口を開いた。
「どんなこと?」
「最近、どういうわけか学校中に私たちの噂が広まっているの。私は慣れてるけど、あなたには悪い影響があるかもしれない。だから、はっきりさせておいた方がいいと思って。」
柳裕亮はハンドルをそっと握りしめた。「今日僕を呼び出したのは、そのことを話すためなの?」
「うん。」時田浅子は頷いた。
「噂なんて気にする必要はないよ。しばらくすれば自然と消えるものだし、わざわざ釈明する時間を無駄にする必要はない。それに、あなたが釈明したところで、人の口に戸は立てられないんだから、彼らの言葉を止めることはできないよ。」
「でも……」
「時田浅子、僕は君と噂になることを少しも悪いことだとは思っていない。君は知っているかな、僕の心の中で、君がどれほど素晴らしい存在なのかを?」
時田浅子はその言葉を聞いて、一瞬固まった。
ちょうど赤信号になり、柳裕亮は車を止め、体を回して時田浅子を見た。
「覚えているかい、僕たちが初めて会った時のこと?他の新入生は皆、親に付き添われていたけど、君は一人だった。三つの長い列に並んで、三回も手続きをしなければならなかったね。」
時田浅子の思考も過去に引き戻された。「あの日は本当に忙しかったわ。あなたが助けてくれて良かった。そうでなければ、少なくともあと2、3時間は並ばなければならなかったでしょうね。」