藤原時央は玄関に立ち、腕にスーツをかけ、上品で気品のある様子だった。
彼は返事をせず、黙って彼女を見つめていた。
時田浅子は再び恥ずかしそうに頭をかき、急いで一歩後ろに下がった。「どうぞ、お入りください」
藤原時央は一歩踏み出して中に入り、この小さな部屋を見て眉をひそめた。この家は彼が想像していたよりもさらに小さかった。
リビングは彼の住んでいる場所の玄関ホールよりも小さかった。
時田浅子も感じていた。藤原時央がこの部屋に立っていると、この環境にそぐわないように見える。彼がこの環境を見れば、長居はしないだろう。
「藤原若旦那、食事はされましたか?」時田浅子は静かに尋ねた。
「いいえ」藤原時央はそっけなく答えた。
「では、少し麺を作りましょうか」
「バスルームはどこだ?先にシャワーを浴びたい」藤原時央は遠慮なく言った。
時田浅子は一瞬固まった後、我に返り、彼女の寝室の方向を指さした。
藤原時央はスーツをソファに投げ、寝室へ向かった。
時田浅子はキッチンへ行き、先ほど用意していた食材を取り出し、スープ麺を一人前作った。
麺が出来上がった頃、藤原時央もバスルームから出てきた。全身にはバスタオル一枚だけだった。
そのバスタオルは、時田浅子のものだった。
時田浅子は口を開きかけたが、言葉が喉元まで来て飲み込んだ。
彼女は藤原時央がバスタオル一枚だけというのを見たくなくても仕方がなかった。彼に着替えさせる服がほかになかったからだ。
「先に麺を食べてください」時田浅子は言った。
藤原時央がこの後残るかどうかに関わらず、彼女は彼がバスタオル一枚で彼女の前をうろつくのを許すわけにはいかなかった!
この間に、急いで彼の服を洗って乾かさなければ。
時田浅子はソファに向かい、藤原時央のスーツを手に取った。
スーツには女性の香水の匂いがした。
彼女はわざわざ嗅ぐまでもなく、その香りが漂ってきた。
この香りはどこか馴染みがあった。
彼女は斉藤若春の身体からこの香りを嗅いだことがあった。
彼女はスーツをきちんとたたみ、バスルームへ向かって他の衣類を取りに行った。
藤原時央は忙しく動き回る時田浅子の姿を見て、心に温かさを感じた。
普通の家庭とは、こういう平凡で温かい生活なのだろうか?
この感覚は、純粋で甘美だった。