「身に着けるもの?」藤原時央は何のことか分からなかった。
「パンツよ!」時田浅子は歯を食いしばって二文字を絞り出した。
藤原時央はその二文字を聞いて顔色が変わった。
車内は沈黙に包まれた。
生まれて初めて、藤原時央は戸惑いを感じ、口を開いたものの、言葉に詰まった。
時田浅子の表情が硬く、まだ怒っているのを見て、彼の心の中では喜びが爆発していた。
あの夜、彼女がこのことで彼を嫌がり、拒絶していたと分かっていれば、自分を酔いつぶすまで飲むこともなかっただろう!
白沢陸のやつに笑い者にされるところだった!
藤原時央は手を伸ばして時田浅子の手を握った。
時田浅子はすぐに手を引っ込めた。彼はもう何も言えないだろう?
藤原時央は時田浅子の表情を見て、彼女の考えていることを理解した。この誤解をこれ以上続けるわけにはいかない。
彼は携帯を取り出し、斉藤若春に電話をかけた。
斉藤若春は藤原時央からの着信を見て、心が躍った。
彼女はずっと大月結弦の様子を気にしていた。結局のところ、大月結弦がこの件を追及し続けるのではないかと心配していたのだ。大月結弦はここ数日、遊び歩いていなかった。彼女は、藤原時央が本当に彼女のためにこの問題を解決してくれたのだと思った。
彼女は、藤原時央がこの電話で彼女を慰めてくれるものと心から信じていた。
彼女はわざとせきをして、自分の声が弱々しく、かすれて聞こえるようにした。
「もしもし、時央、ゴホゴホ!」
時田浅子は電話から聞こえてくる声に驚愕した。
藤原時央が斉藤若春に電話をかけたなんて?
彼は何をしようとしているの?
藤原時央は斉藤若春の声を聞いて、不思議そうに尋ねた。「どうしたんだ?」
「体調が少し悪くて」斉藤若春は言い終わると、藤原時央がさらに彼女を気遣ってくれるだろうと思い、こっそりと待っていた。
「お大事に」藤原時央はそっけなく返事をし、それから尋ねた。「あの夜、君は私の服に何か入れなかったか?」
時田浅子:……
「私…何か入れたかしら?」斉藤若春の声は困惑に満ちていた。そして、恐怖に駆られたように言った。「時央、あの夜のことは話さないでくれない?私は…」
電話からすすり泣く声が聞こえてきた。とても悲しそうに泣いているように聞こえた。