会場の観客もこの男性のテナーボイスに衝撃を受け、次々とボタンを押し始めた。
わずか十数秒で、通過率は五十パーセントに達した。
「16番の選手、第一関門突破おめでとうございます!ドアを開けてください!」
ドアがゆっくりと開き、中年の男性が現れた。少し太めの体型で、スーツを着こなし、笑顔で皆に手を振った。
「なんてこと、木村丈博じゃないか!」会場の観客が叫んだ。
「番組側が木村丈博を招待できるなんて!すごい面子だ!」
時田浅子も木村丈博の名前を聞いたことがあった。大川先生が何度か彼のことを話していた。
「木村先生、ようこそ」司会者が木村丈博の側に歩み寄り挨拶した。
「司会者さん、こんにちは」
挨拶の後、司会者は簡単なインタビューを行い、それは選手の自己紹介も兼ねていた。
次に、二人目の出場選手が抽選された。
五人の選手のうち、二人はあのドアを開けることができなかった。
一人は緊張しすぎて実力を発揮できず、もう一人は音程を外してしまった。
この過程で、すでに約二時間以上の収録が行われ、ディレクターのアシスタントが全員に休憩を告げた。
時田浅子はスタッフの案内に従い、楽屋に向かった。
森山緑が桃を連れてメイク直しにやってきた。
「調子はどう?」森山緑は笑顔で尋ねた。
「こういう番組の収録は初めてだから、新鮮だね」
「緊張してない?」
「ちょっとね。みんな歌を歌っているけど、私は声優だから、プレッシャーを感じるよ」
「他人を過大評価して、自分を過小評価しないで」森山緑は冗談めかして言った。
「疲れた!私はバカみたいに二時間以上そこに立っていて、足がしびれたわ!番組はどう手配してるの?出演順序はとっくに決まってるのに、私たちの番じゃないのに立たせるなんて、人間性あるの?」突然声が響いた。
金恵が入ってきて、時田浅子を見た瞬間、顔を曇らせ、白目をむいて反対側に座った。
彼女が座るとすぐに、アシスタントがしゃがんで彼女の靴を脱がせ、スリッパに履き替えさせた。
金恵は冷たい表情でアシスタントを蹴り、「足が痛くて死にそう。マッサージしろって言わなきゃわからないの?給料泥棒!」
アシスタントは急いで彼女の足をマッサージし始めた。
時田浅子はこの光景を見て、人間の下限を知った気がした。確かに、この世には本当にいろんな人がいるものだ。