第509章:恋の始まりを知らず

真夏の盛りで、夜になっても、依然として蒸し暑かった。

特に病院を出た後、あの蒸し暑さが直接襲いかかり、体を包み込んだ。

まるで時田浅子の今の気持ちのように。

彼女はゆっくりと顔を上げた。夜空はネオンに照らされて明るく、雲が厚く、空も霞んでいるように感じた。

雲の間で時折稲妻が光り、続いて轟く雷鳴が聞こえた。

時田浅子は足を踏み出して前方へ歩き始めた。

まだ遠くまで行かないうちに、空から雨が降り始めた。

彼女は傘を持っておらず、ただ漫然と前へ歩き続けた。

雨はますます強くなり、時田浅子は立ち止まった。目の前の景色は雨に遮られ、彼女はもう我慢できず、涙を思いのままに流した。

彼女の脳裏には、母親が運ばれていく光景が勝手によみがえった。

もし母の状態が悪化したらどうしよう?