時田浅子の顔に一筋の失望が走った。
彼女はてっきり、あの薬が手に入ると思っていたのに。
「宮本さん、あなたは研究チームの一員じゃないの?」時田浅子は宮本凪の腕をつかみ、心の中でまだ一縷の望みを抱いていた。
「浅子、薬は他のものとは違って、非常に厳しく管理されているんだ。前回会った後、君が母親を海外に連れて行って治療することを望まなかったから、僕は国外に行ったんだ。僕が国外に行った目的は、この薬の市場投入を早めるためだった。今日君を訪ねてきたのは、この薬が市場に出ただけでなく、国内でも導入できるようになったことを伝えたかったからだ。」
時田浅子の心に喜びが湧き上がり、急いで尋ねた。「どうやって導入するの?もう話がついたの?」
「焦らないで、ゆっくり説明させて。この件は簡単には説明できないけど、もし進展が早ければ、一ヶ月もしないうちに君のお母さんが入院している病院で試験的に使用できるようになるよ。」宮本凪は時田浅子に安心感を与えた。
「本当?」時田浅子はまるで信じられないといった様子だった。
「本当だよ。」宮本凪は確かにうなずいた。
宮本凪は雨に濡れた時田浅子を見て、胸が痛んだ。
手を上げて時田浅子の濡れた前髪を整えた。
「どうして一人でここで雨に濡れてるんだ?バカだな、自分が病気になったらお母さんの面倒は誰が見るんだい?」
宮本凪の言葉は一瞬で時田浅子を記憶の奥底へと引き戻した。
「バカだな、次は走ってこなくていい、僕が会いに行くから。」
「バカだな、雨が降ってる、靴が濡れちゃうよ、僕が背負って行くよ。」
「バカだな、好き嫌いすると醜くなるよ。」
宮本凪は車の窓の外を見て、まだ営業している衣料品店を見つけた。「運転手さん、ちょっと車を止めてください。」
運転手は車を止めた。
「浅子、車の中で待っていて、すぐ戻るから。」宮本凪はそう言うと、車のドアを開けて降り、雨の中を道端の衣料品店へと走っていった。
遠くない場所で、藤原時央の車も止まっていた。
江川楓はバックミラーを一瞥し、藤原若旦那の表情が空の雲よりも暗いことに気づいた。
「藤原若旦那、あの宮本凪という人は若奥様に服を買いに行ったようですね。」
藤原時央は宮本凪という人物を知っていた。