第521章:彼女が理解していたのは決して本当の彼ではなかった

彼女は藤原時央の手から自分の手を引き抜こうとしたが、藤原時央の指は彼女の指の間に入り込み、しっかりと絡み合っていた!

「宮本さん、私の妻から手を離してください。」藤原時央は宮本凪を押しやった。

宮本凪は時田浅子を傷つけることを恐れ、手を離した。

しかし、藤原時央に強く押され、後ろの椅子にぶつかった。

「藤原時央!」時田浅子は怒って叫んだ。

「今後彼が君に手を出したら、必ず彼の腕を一本潰す!」この言葉は、藤原時央の歯の隙間から漏れ出た。

一言一言に冷たさと凶暴さが滲んでいた!

「行くぞ。」藤原時央は時田浅子の手を引いて外へ向かった。

「浅子!」宮本凪は切迫した様子で時田浅子に呼びかけた。

斉藤若春はこの光景を見て、目を伏せた。彼女の心も葛藤していた。

一方では、彼女が完遂しなければならない任務があり、もう一方では、彼女が必ず手に入れなければならない男がいる。もし彼女も一歩も譲らなければ、どうやって藤原時央に、彼女が彼のためにすべてを捧げられると信じさせることができるだろうか?

「時央、臨床研究協力チームの設立について同意してくれないなら、このプロジェクトを取り消して、導入の件だけ話し合いましょう。」斉藤若春はゆっくりと口を開いた。

「斉藤社長!」秘書は焦り、もう少しで斉藤若春の腕を掴むところだった。

藤原時央は足を止め、振り返って斉藤若春の方を見た。

「他に付帯条件がなければ、話し合いを続ける価値はある。」藤原時央は時田浅子の手を引いて再び席に戻った。

時田浅子の手のひらには既に汗が滲んでいた。

彼女の心は、この会議室に入ってから、ずっと高く吊り上げられたままだった。

「新しい契約書を作り直してきなさい。」斉藤若春は秘書に命じた。

「斉藤社長、もし勝手に契約を変更されたら……」

「私に仕事の仕方を教える必要はないでしょう?」斉藤若春は怒って秘書の言葉を遮った。

「はい。」秘書はすぐに退出した。

数分後、新しい契約書を持って戻ってきた。

藤原時央は契約書の内容を再度確認した。「あなたたちの薬のサンプルは後ほど白川先生に渡してください。」

「あなたたちには使用経験がないので、白川先生に協力できます。」