第524章:それ以外に、あなたには他にすることがないの?

電話の音が突然鳴り響き、階段の踊り場では特に大きく聞こえた。

藤原時央は時田浅子から手を離し、ポケットから携帯電話を取り出した。

時田浅子はようやく安堵のため息をついた。

藤原時央は身を翻し、電話に出た。

「ああ、今夜時間を作って会いに行く」たった一言だけ返事をして、電話を切った。

電話をしまうと、藤原時央は笑みを浮かべて時田浅子を見つめた。「ここが病院の階段じゃなくて、私たちの家のベッドだったらどんなに良かったか」

時田浅子の心に怒りが湧き上がった。

「あなたと私が一緒にいるとき、それ以外に何もすることがないの?」彼女は藤原時央に問い返した。

しかも、彼は彼女の気持ちや意思を全く考慮していない。

こんな状況で、彼女にそんな気分になれるはずがない。

藤原時央が答える前に、時田浅子は隣のドアを開けて出て行った。

藤原時央は3秒ほど呆然としてから、すぐに追いかけた。

時田浅子はまだ怒っていて、壁に寄りかかり、表情を硬くしていた。

「お母さんの状態はまだ安定していないし、私たちも面会できない。ここには白川健斗がいるから、何かあれば真っ先に連絡してくれるはずだ。先に家に送るよ」

「今日は特に予定もないから、白川先生が出てきて、母の状態を聞いてから帰るわ」時田浅子は首を振って断った。

「わかった」藤原時央はうなずいた。

しばらくすると、白川健斗が歩いてきて、藤原時央と時田浅子を見て少し驚いた様子だった。

「まだ帰っていなかったのですか?」

「白川先生、母の状態はどうですか?」時田浅子はすぐに前に出て尋ねた。

「今出てきたところですが、熱はまだ下がっていません。ただ、炎症はかなり抑えられていて、これ以上悪化していません。もう少し入院が必要かもしれませんが、他のことはあまり心配しなくても大丈夫です。焦らずに見守りましょう」白川健斗は優しく慰めた。

「はい」時田浅子はうなずいた。

白川健斗は携帯を取り出し、動画を開いた。

「もう帰ったと思っていたので、あなたの携帯に送るつもりでした。まだいるなら、直接見てください」

時田浅子はその動画を開いた。母親が病室にいる姿だった。

動画の中で、時田秋染はベッドに横たわり、顔色は青白かったが、それでも笑顔を作っていた。

「白川先生、浅子に伝えてください。私は大丈夫だから、心配しないでと」