彼は初めて時田浅子の顔にこのような眼差しを見た。
この瞬間、彼女の目には彼しかいなかった。
もし、この眼差しが他の誰かを見ていたなら、彼はきっと嫉妬で狂ってしまうだろう。
彼は時田浅子の手をしっかりと握り、「もう遅いから、帰ろうか」と言った。
「うん」時田浅子はうなずいた。
藤原時央は車を運転し、時田浅子を乗せて出発した。
二人とも何も話さなかった。
車が止まり、信号待ちをしていた。
藤原時央は突然振り向いて時田浅子を見た。「ケーキ食べたい?」
時田浅子の表情が固まった。
今や彼女はケーキを食べるという言葉を聞くだけで、つい変な想像をしてしまう。
「食べたくない」彼女はすぐに首を振った。「急にお酒が飲みたくなった」
藤原時央はアクセルを踏み、別の方向へ車を走らせた。
「ケーキも食べて、お酒も飲ませてあげる」
時田浅子の頭の中でまた妄想が始まった。
「これは何か新しい手なの?」彼女は思わず尋ねた。
藤原時央は笑いを抑えられなかった。「どんな新しい手が欲しいの?」
「そんなことないわ」彼女は否定した後、すぐに窓の外を見た。
藤原時央は彼女の手を握り、「ケーキは温かいうちに食べないといけないし、お酒も飲みすぎはダメだよ」と言った。
車が止まると、藤原時央は車を降りてケーキを買いに行った。
この時間帯は人もまばらで、多くの店がもう閉店していた。
時田浅子はこのケーキ店を知っていた。帝都にはこの一軒しかなく、ケーキ一つが最低でも四桁からで、しかも超VIPでなければいつでも買えるというわけではなかった。
つまり、数十万円を消費する会員でさえ、飛び込みサービスは受けられないということだ。
藤原時央がケーキを持って店から出てくるのを見たとき、突然涙が彼女の目を曇らせた。
良くない記憶が彼女の脳裏に浮かんできた。
藤原時央が車のドアを開けると、時田浅子が自分の服をきつく掴み、目に涙を浮かべているのが見えた。
「どうしたの?」彼は心配そうに尋ねた。
少しの間離れただけで彼女がまた泣いているとわかっていたら、一緒に買い物に連れて行ったのに。
「大丈夫、さっき窓を開けたら風が入ってきただけ」時田浅子は嘘をついた。
藤原時央はケーキを脇に置き、優しく彼女の頬の涙を拭いた。
時田浅子は突然彼の胸に飛び込み、彼をきつく抱きしめた。