藤原時央は薄暗い廊下を見つめていた。昼間でも光が乏しく、夜はなおさらだった。
しかも、照明も壊れていた。
時田浅子はこんな環境に住み、しかもあんなに小さな頃から、よく一人で家にいたのだ。だから彼女が明かりを消して眠ることができない習慣を身につけたのも無理はない。
「4階よ。階段は少し汚いから、真ん中を歩いて」と時田浅子は注意を促した。
彼女は、藤原時央がこの環境に全く馴染まないと感じていた。
藤原時央は自分のことを気にせず、むしろ手を伸ばして時田浅子を守るように歩いた。
4階に着くと、時田浅子は真っ直ぐ東端の部屋へ向かい、鍵を取り出してドアを開けた。
ほぼ1年間人が住んでいなかったため、部屋にはカビ臭さがあり、埃もひどかった。
「まだ入らないで。窓を開けて換気するわ」と時田浅子は藤原時央を遮った。
彼女は藤原時央の服が汚れるのを避けたかった。
「若奥様、私が行きます」と江川楓がすぐに中に入った。
藤原時央は時田浅子の肩を抱きながら廊下の窓の下に立った。ここは風通しがよく、光も十分に入ってきた。
「時央、あなたが一緒に来てくれなかったら、私が一人で来ていたら、どんな気持ちになっていたか分からないわ」と時田浅子はゆっくりと口を開いた。
「君を一人で来させるわけがない」と藤原時央は優しく答えた。
「ここには私の思い出がたくさんあるの。楽しいものも、辛いものも。もう一度ここに立ってみると、それらの記憶が夢のように交錯して、本当に夢だったかのように感じるわ」
「それを夢だと思えばいい。本当の現実は、僕と出会ってからだと考えて」と藤原時央は慰めた。
「うん」時田浅子は笑顔でうなずいた。
突然、階段から足音が聞こえてきた。不動産屋が買い手を連れてきたのだ。
買い手は三人家族で、小さな赤ちゃんを抱いていた。
彼らは地元の方言で話していた。
時田浅子も地元の言葉で彼らに挨拶した。
藤原時央はほとんど理解できなかった。
話し合いの後、時田浅子は相手と契約を交わした。
彼女は部屋に戻って荷物をまとめ始めた。実際、運ぶものはそれほど多くなく、江川楓が用意した二つの箱で十分だった。
時田浅子は引き出しから箱を取り出した。
中には勲章が入っていた。
「これは祖父が亡くなる時に私に渡したものよ」