第692章：追い出される

この数人の言い訳を聞きながら、林聡明は皮肉な笑みを浮かべた。

「ああ、林社長、会社の問題は藤原社長が解決したんじゃないですか？まさか、あなたが藤原社長を知っているとは思いませんでした！」

「知っているどころか、家族同然の仲だよ」林聡明は厚かましく答えた。

「誰があなたと家族なの？」冷たい声が響いた。

時田浅子が鈴木真弦と数人に囲まれて入ってきた。

その場にいた人々も次々と立ち上がり、時田浅子を見つめた。

彼らは林聡明と何年も取引をしてきたが、時田浅子を見たことはなく、林清子しか知らなかった。時田浅子の美しさに、皆は目を離すことができなかった。

林聡明にはこんなに美しい娘がいたのか！

もう推測するまでもない、藤原時央が林グループを助けたのは、林聡明のためではなく、この時田浅子という娘のために違いない。

だから林聡明が得意げに「家族同然」と言ったのだ。

まるで藤原時央の義父のような口ぶりじゃないか！

林聡明は時田浅子を一瞥し、顔の笑みが凍りついた。彼は藤原時央の姿を見つけられず、藤原時央の側近と数人の見知らぬ顔しかいなかった。

鈴木真弦は林聡明が社長の席に座っているのを見て、すぐに前に進み出て、手で促すジェスチャーをした。「林さん、それはあなたの席ではありません。どうぞ移動してください」

林聡明は恥ずかしそうに体を動かした。

「時田社長、どうぞお座りください」鈴木真弦は呼び方を変えた。

時田浅子はほとんど反応できなかった。

彼女は実は少し緊張していたが、鈴木真弦が彼女に微笑みかけ、椅子を引いた。

鈴木真弦がいることで、彼女にとっては心強かった。

それに、藤原時央は同じフロアの社長室に座っているのだ。

そう考えると、彼女の気持ちは落ち着き、椅子に座った。

「時田社長、はじめまして、村上亜樹です。今後ともよろしくお願いします」村上亜樹はすぐに挨拶に来た。

他の数人も負けじと、次々と時田浅子に自己紹介をした。

林聡明は端に追いやられ、完全に無視されていた。

「皆さん、こんにちは。私も皆さんにお会いできて嬉しいです」時田浅子は静かに応えた。

鈴木真弦はファイルを開き、隣の助手に渡した。「これを皆に配ってください」

数人の取締役もすぐに自分の席に戻った。

林聡明は今や、隅に座り、手にも一部の書類を持っていた。