島田香織は冷淡な表情で藤原航の顔から視線を外し、落ち着いて言った。「分かりました、藤原社長」
藤原航は島田香織の言葉を聞くと、それ以上留まることなく、踵を返して立ち去った。
奇妙だ。
島田香織は菓子を一つ口に入れながら、どうしても理解できなかった。藤原航が林杏の世話をしに行かないなんて、科学的に説明がつかない。
でも彼女には藤原航のことを気にかける暇なんてなかった。
「香織」白いドレスにハイヒールを履いた陣内美念が外から入ってきて、島田香織の顔に視線を向けた。「調べが済んだわ」
「林桃子って誰なの?」島田香織は好奇心を持って尋ねた。先ほど藤原昭子が彼女に挑発的な態度を取った時に「林桃子」という名前を出したので、興味を持って陣内美念に調べてもらったのだ。
「5年前、林桃子は事故で植物人間になって、1年前にようやく目覚めたの」陣内美念はケーキを一口食べ、飲み込んでから続けた。「林桃子は林杏の妹よ。当時、藤原家の長男が林杏と付き合っていた時に、自然と藤原航も林杏と親しくなったの」