083 利用されたの?

「誰も利用されるのは好きじゃない」島田香織は藤原航のしたことを思い出し、顔の笑みが薄れた。

「藤原社長のこと?」

島田香織は目を上げて陸田健児を見つめ、困惑して瞬きをした。「読心術ができるの?」

陸田健児は軽く笑いながら首を振った。

「やっぱりワインが美味しいわ」島田香織は笑いながらワイングラスを揺らし、一気に飲み干した。

彼女が酒を飲む時、頭を上げると長く白い首筋が露わになり、陸田健児は少し見とれてしまったが、すぐに我に返り、静かに目を伏せた。

島田香織は以前、藤原航に気に入られようと一生懸命努力していた時のことを思い出した。長く付き合えば愛情が芽生えると思い込み、藤原航はきっと自分のことを好きになってくれると信じていた。

でも藤原航の心の中には林桃子しかいないと知った時、彼女は自分が藤原航の目には単なる馬鹿でしかなかったことを悟った。もし最初から藤原航が林桃子をそれほど愛していることを知っていたら、きっと身を引いていただろう。

気付かなければ、藤原航にもう三年も騙され続けていたかもしれない。

陸田健児は少し寂しげな島田香織を見つめ、胸が痛んだが、表情は相変わらず花のように明るく笑って尋ねた。「冒険に行かない?」

島田香織は笑いながら不思議そうに陸田健児を見て、「どんな冒険?」と聞いた。

「後で分かるよ」陸田健児はそう言って、手のワインを飲み干し、外へ向かって歩き出した。

島田香織は陸田健児の去っていく背中を見つめ、瞳の中の戸惑いは更に深まった。

陣内美念が傍らを通りかかり、島田香織の視線の先を追って見た後、視線を戻し、不思議そうに島田香織に尋ねた。「陸田スターは今何て言ったの?」

陣内美念はずっと島田香織と陸田健児を密かに観察していて、島田香織の様子が随分良くなったように見えたので、二人が一体何を話していたのか気になっていた。

「教えない」島田香織は近くのフルーツを手に取り、ゆっくりと食べ始めながら、興味深そうに陣内美念を見て尋ねた。「田村警部とはどうなの?」

田村警部の話が出た途端、陣内美念の顔がすぐに曇り、不満そうに口をとがらせた。「私が思い切って押し倒して一晩中愛し合ったのに、次の朝起きたら彼は消えていて、携帯も電源オフ!」

島田香織は一瞬止まり、首を傾げて陣内美念を見て言った。「もしかして任務に出たんじゃない?」