安田暖香は陸田健児の口から「暖香」という言葉を聞いた時、少し驚いた。
彼女と陸田健児は長年の付き合いがあるが、これが初めて彼が彼女の名前を呼んだ。
陸田健児は普段は温厚に見えるが、実は骨の髄まで冷たい人で、彼の心に入り込める人は数少ない。
「私が口出ししないのはいいけど、こうしましょう」安田暖香は窓際に寄り、星のように輝く瞳で陸田健児の顔を見つめて、「ドライブに連れて行って。それくらい難しくないでしょう!」
陸田健児は少し躊躇してから、運転席に向かって歩き、車に乗って安田暖香を連れて出発した。
彼は心の中でよく分かっていた。安田暖香は好き勝手に振る舞えるが、自分はそうはいかない。
彼は島田香織を失うことを恐れていた。三年前に既に彼女を失っており、今度は負けるわけにはいかなかった。