178 私を裏切ったの!

バーの外。

安田暖香は笑顔で立ち止まり、振り返る陸田健児を見て、思わず冗談めかして言った。「もう見えないわよ。」

陸田健児:……

安田暖香は陸田健児を見つめ、目元の笑みを深めながら興味深げに尋ねた。「まるで望夫石ね。そんなに彼女のことが好きなの?」

陸田健児は冷ややかに視線を戻し、安田暖香の顔を見つめながら言った。「お義姉さん、もうバーまで連れてきたんだから、早く帰りましょう。」

陸田健児は嫉妬深い兄のことを考えると頭が痛くなった。今回も兄が嫉妬でどんな狂った行動に出るか分からない。

「でも、もう少し遊んでいきたいわ。」安田暖香は本当に陸田健児に逆らうつもりはなく、ただ義弟が好きな女の子がどんな人なのか気になっただけだった。結局、家族総出で聞き出そうとしても、陸田健児からは何の有用な情報も得られなかったのだから。

安田暖香は陸田健児の表情が暗くなるのを見て、何も言わずにバーの中へ向かって歩き出した。数歩進むと、陸田健児が後を追ってくるのを感じた。

彼女は陸田健児がついてくることを予想していた。だって、彼の頭の中は島田香織のことでいっぱいなのだから。

安田暖香は見晴らしの良い席を見つけ、そこから少し離れた場所にいる島田香織がちょうど見える位置に座った。そしてウェイターに酒を数本持ってくるように頼み、酔いつぶれるまで飲むつもりでいた。

陸田健児は安田暖香に酒を飲ませるわけにはいかなかった。彼女が酒を飲んでどんな常識外れなことをするか分からないからだ。そこでウェイターを下がらせた。

「お義姉さん、何がしたいんですか?」陸田健児は眉をひそめながら、じっと安田暖香を見つめた。

自分が連れてきた以上、彼女を無事に連れて帰らなければならない。そうしないと兄が爆発してしまう!

安田暖香は悪戯っぽく笑い、陸田健児に近づいて、口角を上げながら小声で尋ねた。「別に何もないわ。ただ、島田香織があなたの初恋なのかどうか知りたいだけ。」

陸田健児は無表情で安田暖香を見つめ、何も言わなかった。

「言わなくてもいいわ。実は私と兄さんは、あなたが男性が好きなんじゃないかって疑ってたの。」安田暖香はここまで言って、思わず眉をひそめ、物憂げに続けた。「でも、男性のパートナーも家に連れてこないし。健児、私はあなたの義姉だから、何でも話してくれていいのよ。」