藤原航は冷たい表情で家政婦が去っていくのを見つめ、視線が徐々に棚の上の携帯電話に落ちていった。歩み寄ってイライラしながら携帯をゴミ箱に投げ入れた。
一時間後、藤原グループにて。
藤原航がオフィスに戻ってきたところに、林楠見が書類の束を抱えて入ってきた。一番上には映画『戦神』の契約書が置かれていた。
林楠見は契約書に目を通し、躊躇いながら藤原航を見て、おそるおそる尋ねた。「この映画はまだ島田さんを起用するんですか?」
藤原航の冷たい視線が向けられた途端、林楠見は怖くなって即座に頭を下げた。彼は慌てて言い訳を見つけ、足早に外へ向かった。
まったく、怒っている藤原社長なんてもう二度と見たくない。本当に怖すぎる。
オフィスには藤原航一人だけが残された。
藤原航は契約書の表紙にある「戦神」の二文字を見つめ、眉をしかめながら、上着のポケットからゴミ箱に捨てたはずの携帯電話を取り出した。
確かに携帯を捨てたはずなのに。
なぜか分からないが、また拾い上げていた。
この携帯電話は10年前のモデルのようで、まだボタン式だった。
携帯を開くと、画面にパスワード入力を促す文字が表示され、彼は自嘲的に笑った。
携帯を開いて中身を見ようなんて、きっと頭がおかしくなったに違いない。
心の中で自分を非難しながらも、右手は躊躇うことなく島田香織の誕生日を入力した。
パスワードが間違っていた。
藤原航は少し迷った後、自分の誕生日を入力してみた。
携帯が起動した瞬間、藤原航の心は誰かに掴まれたかのように、緊張で息もできないほどだった。
彼は複雑な思いで携帯を見つめた。
島田香織の携帯のパスワードが自分の誕生日だったなんて、まったく予想もしていなかった。
この瞬間、藤原航は島田香織が随分前から自分のことを好きだったのだと明確に認識した。
アドレス帳には何も入っていなかったが、200通以上のメッセージがあり、全て同じ相手に送られていた。
藤原航は他人のプライバシーを覗き見ることが不道徳だと分かっていながらも、抑えきれずにメッセージを開いた。
最新のメッセージを開くと、3年前のもので、そこには六文字だけあった:「私、彼と結婚します!」