島田香織が出て行くと同時に、鈴村秀美の携帯が鳴った。
鈴村秀美は目に不快感を浮かべた。藤原おじいさんが待ちきれずに電話してくるだろうと予想していた。
「うまくいったか?」電話の向こうから藤原おじいさんの不機嫌な声が聞こえた。
鈴村秀美は目を伏せ、物憂げな様子を装って、「お父様、申し訳ありません。私の不手際です。チャンスを掴めませんでした」
電話は一方的に切られた。
鈴村秀美は携帯を見つめ、バッグに入れて帰る準備をした。
島田香織は外に出て時計を見た。時間が経つのは早いもので、こんなにあっという間に30分が過ぎていた。
そのとき、島田香織はスーツを着た男性二人が女性を両側から引きずっているのを目撃した。
「離して!離して!私は行きたくない、枕営業なんてしたくない!」女性は号泣しながら必死に抵抗していた。スーツ姿は乱れ、シャツのボタンは外れそうで、スカートは短くなってパンティーが見えそうになっていた。
女性の靴は片方落ちていた。
島田香織はその女性の哀れな姿を見て、以前自分が藤原航の部屋に連れて行かれた出来事を思い出した。
自分の身に起きた悲劇が他の女の子にも起こりうると思うと、すぐに携帯を取り出し、躊躇なく警察に通報した。
「もしもし、ここはブルーカフェですが、男性二人が女性を引きずって…」
島田香織の言葉は、スーツの男の一人に遮られた。
スーツの男は激怒した様子で島田香織を指差し、「我々の内輪の問題だ。お前に関係ない。分別があるなら黙っていろ!」と罵った。
「男性の一人は右目の下に傷跡があります」島田香織は無表情で言った。
「このクソ女が!」スーツの男は激昂して島田香織の携帯を奪おうとしたが、彼女に蹴り飛ばされた。
島田香織はこんな高級カフェでこのような事件が起きるとは思わなかった。通報を続けようとした時、二人のスーツの男は恐れをなして逃げ出した。
虐げられた女性は泣きながらその場に座り込み、島田香織を見上げて感謝の表情で「ありがとう」と言った。
島田香織はその女性と話す気もなく、立ち去ろうとしたが、隣の個室のドアが突然開き、先ほどまで地面で泣いていた女性が島田香織を中に押し込んだ。
島田香織が出ようとした時、ドアは外から鍵をかけられていた。
おかしい。
個室にドアがあるなんて?