211 演技を見せる

鈴村秀美は目の前の島田香織を見つめていた。藤原家にいた頃の島田香織とは全く別人のようだった。

以前の島田香織は上品で礼儀正しかったものの、今ほど強い意志を持っていなかった。そして、顔には優しい笑みを浮かべていた。

「アカデミー賞主演女優賞、おめでとう。本当にすごいわね」鈴村秀美は心からの祝福を込めて言い、バッグからジュエリーケースを取り出して島田香織に差し出した。「これ、お祝いの品よ」

島田香織が断ろうとした時、鈴村秀美がスマートフォンのメモ帳に書いた文字が目に入った。

鈴村秀美:藤原おじいさんが珍しく気前がいいから、もらっておきなさい。損はないわよ!

島田香織は笑いを堪えながら、スマートフォンで文字を打ちつつ、冷たい声で言った。「藤原奥様、お気遣いは結構です。もう過去のことですから」

島田香織:ありがとうございます、おばさま。

鈴村秀美は「おばさま」という文字を見て胸が痛んだ。なんて良い子なのに、航には縁がなかったのね。

「香織さん、私の気持ちなの。受け取ってちょうだい。気を遣わないで」鈴村秀美はそう言いながら、ケースを開けて島田香織に差し出した。「大したものじゃないわ!」

鈴村秀美:わざとサファイアのネックレスを選んだの。昔からサファイアが好きだったでしょう。

島田香織はケースの中のネックレスを見て、こっそりと鈴村秀美に親指を立てたが、表情は冷淡なままで言った。「ありがとうございます、藤原奥様。では、ご厚意に甘えさせていただきます」

鈴村秀美と島田香織の二人は言葉を交わさず、ただメモ帳に文字を打っていた。

鈴村秀美:藤原おじいさまが急かすから来たの。あなたを藤原家の嫁にしたいって。それと、今日はトイレに行かないで。

島田香織は眉を上げ、素早く文字を打った。

島田香織:どうしてですか?

鈴村秀美も島田香織にそんな汚い事に関わってほしくなかった。

鈴村秀美:言う通りにしてくれればいいの。

料理が運ばれてきた後、鈴村秀美は島田香織を見上げ、自ら口を開いた。「香織さん、今日お会いしたのは、お話したいことがあってなの」

島田香織は鈴村秀美が手順通りに話し始めたことを理解し、「藤原奥様、何かご用でしょうか?」と言った。