鈴村秀美は目の前の島田香織を見つめていた。藤原家にいた頃の島田香織とは全く別人のようだった。
以前の島田香織は上品で礼儀正しかったものの、今ほど強い意志を持っていなかった。そして、顔には優しい笑みを浮かべていた。
「アカデミー賞主演女優賞、おめでとう。本当にすごいわね」鈴村秀美は心からの祝福を込めて言い、バッグからジュエリーケースを取り出して島田香織に差し出した。「これ、お祝いの品よ」
島田香織が断ろうとした時、鈴村秀美がスマートフォンのメモ帳に書いた文字が目に入った。
鈴村秀美:藤原おじいさんが珍しく気前がいいから、もらっておきなさい。損はないわよ!
島田香織は笑いを堪えながら、スマートフォンで文字を打ちつつ、冷たい声で言った。「藤原奥様、お気遣いは結構です。もう過去のことですから」