島田香織は契約書を取り出し、そこに記載された出演料を見て、少し驚いた。誰でもお金は好きだが、藤原航が彼女にこれほどの出演料を提示するのは、本当に適切なのだろうか?
「藤原社長、太っ腹ですね。この出演料は素晴らしいです」島田香織は嬉しそうに言った。
「気に入ってくれて良かった」
島田香織は契約書を見る手を一瞬止め、藤原航を見上げた。目に笑みはなかった。「なぜこの金額なんですか?」
島田香織は藤原航に何か違和感を感じたが、どこが違和感なのかはっきりとは分からなかった。
藤原航は島田香織の目を見つめ、唇の端に薄い笑みを浮かべた。「あなたにはその価値があるからだ」
島田香織は契約書を手に取り、注意深く確認してから言った。「分かりました。奈奈さんに見てもらって、問題なければサインします」
島田香織は契約書を持って外に向かおうとした。ドアノブに手をかけた時、背後から藤原航の声が聞こえた。
「島田お嬢様」
島田香織は振り返った。
藤原航は静かに座ったまま島田香織を見つめ、その後首を横に振った。
島田香織は困惑した表情で藤原航を見つめ、その後外に向かって歩き出した。
奈奈さんは契約書を確認したが、問題は見つからなかった。島田香織に一言伝えた後、島田香織は直接サインして藤原航に渡した。
「主演男優は決まりましたか?」島田香織は藤原航に向かって尋ねた。
藤原航は契約書を持つ手を一瞬止めた。彼は本来、陸田健児と島田香織に共演してもらおうと考えていたが、陸田健児が島田香織を追い続けていることを考えると、躊躇していて決めかねていた。
島田香織は微笑んで言った。「この映画がより多くの賞を獲得できることを願っています」
藤原航は物思いに沈んだように島田香織を見つめ、外に向かって歩き出した。駐車場に着き、車に座ると、すぐに林楠見に電話をかけた。
「林楠見、主演男優は陸田健児に決定だ。出演料は市場価格で」言い終わると、藤原航はためらうことなく電話を切った。考えを変えてしまいそうだったからだ。
島田香織はオフィスに戻った。今は会社に大きな問題はなく、彼女がすべきことは脚本の研究だけだった。
午後になって、奈奈さんが突然ドアをノックして入ってきた。
「島田お嬢様、藤原奥様が1階にいらっしゃいます。一緒にアフタヌーンティーをしたいとおっしゃっています」